その時、ミトラはムスタファーに言いました。「私たちに愛についてお話しください」

 すると彼は頭を上げ、愛と慈しみがこもった目で群衆を見ました。群衆は黙りました。

 彼は威厳ある声で彼らに言いました。

 「もしも愛があなた方のほうを指したならば、それを追い求めなさい。

 たとえ追い求める道が困難で険しくても。

 もしも愛がその両翼であなた方を一緒にしてくれたならば、それに従いなさい。

 たとえその愛の着物のなかに隠された剣が、あなた方を傷つけたとしても。

 もしも愛があなた方に語り掛けたならば、それを信じなさい。

 たとえ愛の声があなた方の夢を妨げて、北風が庭を荒れ地にしてしまうように、その夢を散り散りにしてしまったとしても。

 なぜなら、愛はあなた方に冠をかぶせもしますが、それと同様に愛はあなた方をはりつけにもするからです。

 愛は、あなた方の成長に寄与するように、そうすることであなた方を教育し、あなた方がもっている頽廃を根こそぎ取り除いてくれもするのです。

 愛は、あなた方の人生の木のてっぺんに昇り、太陽の顔を前にして振えるその木のやわらかな枝枝を抱きしめるように、土に張り付いたその木の根まで降りて、安らかな夜にその木を揺らしもするのです。

 愛は、あなた方を合わせて、あふれる小麦のようなその心へと連れて行くのです。

 愛は、あなたがたの素の姿を現わすために、脱穀所であなた方を脱穀します。

 愛は、あなたがたがもみ殻から離れるように、あなたがたをふるいにかけます。

 愛は、あなたがたが氷のように純粋になるように、あなたがたを挽いて粉にします。

 そして愛は、あなたがたが柔らかくなるまで、その涙にあなたがたを浸します。

 それから愛は、あなたがたを神聖な炎に向けて準備します。あなたがたが、主の神聖な食卓に上る神聖なパンとなるために。

 これらすべては、愛があなたがたに為すことです。あなたがたが、ご自身の心のうちの秘めごとを認識し、その認識によって生の心の一部分となるために。

 ですが、もしあなた方が恐れを抱き、愛のなかの安寧と素敵な部分だけを追求するのであれば、

 あなた方はご自身の素の姿を隠し、愛の脱穀所から抜け出し、遠い世界へと出るのがよいでしょう。そこでは笑いはあるけれども、笑いが全てというわけではありません。泣くこともあります、ですが目尻にかかる涙が全てだというわけでもありません。

 愛は、それ自身以外のものは与えません。そしてそれ自身以外から収奪することもありません。

 愛は、何物も所有しません。誰かに所有されたいと欲することもありません。

 なぜなら、愛はそれ自身で充足しているからです。

 あなたがもし、(誰かを)愛したとしても、『神が私の心の中にいらっしゃる』などと言ってはいけません。『私が神の心の中にいる』と言うようにしなさい。

 決して、愛が進もうとする軌道を思い通りに操ることができるなどと思ってはいけません。なぜなら、もしも愛があなたの中にその愛の恩恵を受けるに足る資格を見出したならば、愛こそがその軌道を操るからです。

 愛には、自分自身を完全なものにしようという欲望以外には、いかなる欲望もありません。

 ですが、もしあなたが愛して、そしてあなたがご自身にとって特別な欲望を抱かないではいられなくなったならば、その欲望をあなた自身の欲望にしなさい。

 あなたが溶け出して、勢いよく流れて、そのせせらぎで夜を喜ばせる小川のようになろうとする欲望に。

 度を越した優しさのなかにある痛みを知ろうとする欲望に。

 心の奥底で本当に愛というものを知ることで、あなた自身が傷つき、あなたの血が流れて、それでもあなたが喜びに踊ることを望む欲望に。

 あなたが夜明けに、羽のついた振える心をもって起き上がり、次の愛の日を求めて感謝する義務を行おうとする欲望に。

 あなたが昼間に休息し、激しい熱愛の情をもってひとりささやこうとする欲望に。

 感謝しながら、夕べにあなたの住まいに帰ろうとする欲望に。

 その時あなたは眠ります。あなたが愛した人のための祈りが、あなたの心の中で繰り返され、讃美と称揚の歌が、あなたの両唇から流れます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る