　それから、ある商人がムスタファーに近づき、こう言いました。「売ることと買うことについてお話しください」

　ムスタファーは答えました。

「大地はあなた方に果実をもたらしてくれます。どうやってご自身の手をその大地の恩恵で満たせばよいかをご存じならば、生活のなかで欠乏を経験することはなかったでしょう。

　なぜなら、大地がもたらしてくれる贈り物の贈り交わしによらなくては、授けられた恩恵からその富を見つけ出すことができず、あなたがたの渇望が満たされないからです。

　このような贈り交わしを、愛と正義の魂をもって行うべきです。もしそうしなければ、贈り交わしによって、あなた方のうちのなかには貪欲、そして渇望と空腹に陥る人が出てきます。

　海、畑、そしてぶどう園での仕事に励んでいる勤勉な人々よ、もしみなさんが街の広場に赴いたならば、機織り、陶器職人、そして香料を集める人々と出会いなさい。

　その際、大地を支配している魂に向かって謹んで祈りなさい。私たちのところに来てくださいますように、そして交換が行われるやり方の程度・大きさを決めている秤（はかり）と天秤を祝福してくださいますようにと。

　働いていない者のうち、生産性の無い手を持つ者をあなた方の取引に参加させてはいけません。なぜなら彼らは、あなた方の労働（の成果）を買おうといってあなた方に売り付けてくる（口先だけの）言葉のほかには何も売る物を持っていないからです。

　このような類（たぐい）の者どもには、むしろこう言っておやりなさい。

『私たちと一緒に畑へ来なさい、そして子どもたちと一緒に海へお行きなさい。そこで網を投げなさい。

　なぜなら大地も海も、あなた方が働くときはいつでも、あなた方に対して寛大に接してくれるし、同様に我々に対しても寛大に接してくれるからです』

　もしあなた方のところに歌手や舞踊家や演奏家がやって来たなら、彼らを拒むことなく、彼らの贈り物からいくつかを買っておやりなさい。

　なぜなら彼らは、あなた方（の品物）と引き換えに、果物や香料を集めてきてくれるからです。

　たとえ彼らがあなた方に差し出すものが夢という素材から出来ているとしても、それこそがあなた方の心にとっては最も美しい衣服であり、最良の食べ物であるからです。

　街の広場から立ち去る前にご覧なさい、誰かが両手が空いたまま広場を後にする人がいないかどうかを。

　なぜなら、この大地の主（あるじ）たる魂は、あなた方のうちで小さい者が、大きな者と同じように、自分が必要としている物全てを手にするところをこの目で見届けるまでは、吹き寄せてくる風の波の上で平穏に心穏やかに眠りにつくことはないからです」

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい