それはかけがえのないひと夏の日々

ファンタジーやホラーのジャンルだけではおさまらない、切なく美しい物語です。
時代に取り残されたような独特な村の雰囲気や、空気を肌で感じるような自然。そこに生きる子どもたちの生活感。
情景がありありと浮かび上がり、すっと物語の舞台へ入っていけるだけに、そこで起こる奇怪な出来事がより不気味さを増します。
村の秘密、火の見櫓の秘密とは。
主人公の少年は、その目を通して何を知るのか。そしてすべてが解き明かされたとき、何を思うのか。
細やかに敷かれた伏線が後半にどんどん生きてくるところは思わずうなり、ため息が出ます。人間の持つ希望の儚さや、業の深さなど、読み進めるごとに色んな感情が迫ってきます。そして、読み終えたとき、このひと夏の日々は少年にとってかけがえのないものだったのだと思えるのです。
読後、タイトルの意味するところがじわりと沁みます。一文一文、丁寧にじっくりと読みたい作品です。

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