全国の石濱ウミファンの皆さま、お待たせしてしまい申し訳ございません。
自分の執筆や情報収集にかまけ、あろうことか読み合い企画に参加していたにもかかわらず、今の今まで本作を読まずにいた愚行を私自身深く反省しているところでございます。
※このレビューは石濱ウミファンにだけ送るメッセージであって、他の読者さまに向けての文章ではございません。なのでここからの細かい説明は省きます。
ファンなら読んでいて当然の名作「夢告げ」はご存じかと思います。
良かったですよね、素晴らしかったですよね。私も大好きです。
そしてそんな名作「夢告げ」を書いた作者さまのカクヨム長編デビュー作がこちらになるのですが、まずは「夢告げ」を読んでいただいた読者さまから読んでいただきたいのです。
そうして初めて本作を読んで堪能していただきたいものです。
ここはぜひ全編をと無理にでもお願いしたいところではございますが、お時間に余裕のない方もおられるでしょうから、せめて1話、2話、3話とお時間の許すかぎりで結構ですので読み進めていってほしいですね。はい。
伝説の始まった瞬間を、作者さまがこれまでに歩んできた歳月と情熱を感じてほしいのであります。
時の流れが止まったかのような、不思議な村。
そこで少年は、理解しがたい出来事に巻き込まれていきます。
空の青さ、澄んだ空気、透明でとても冷たい川の水。
その中で、友達と共に過ごす夏休み。
友人達の表情までしっかり浮かぶほど、彼らの生活が目の前に見えてきます。
そして、それを見守る大人達の姿も。
体験した事はないけれど、彼らの日常は壊れ物のように儚く、そして懐かしさに胸が締め付けられます。
そんな日常のほんの僅かな日陰から、じわりと、少年の心を脅かす存在があちらこちらに見え隠れしています。
この村の秘密。
そして、その村に存在する気味の悪い火の見櫓は何を意味するのか?
全てを少年が知った時、何が起こるのか?
少年と共にこの村でゆっくりと過ごすうちに、不思議な世界へ足を踏み入れていきます。
いろいろな所に顔を見せる不思議に、恐怖するかもしれません。
ですが同時に、深く考えさせられる物語にもなっています。
この村で、あなたは何を見つけるのか?
私は、想う事は想われる事だと、そんな事を感じました。
片方の想いだけではきっと、村の不思議は起きなかったのではないかなと、そんな風に思います。
切なく哀しく、そして愛に溢れた作品です。
どうぞ皆様にも、タイトルの意味、そして少年の勇気を、最後まで見守ってほしいです。
ファンタジーやホラーのジャンルだけではおさまらない、切なく美しい物語です。
時代に取り残されたような独特な村の雰囲気や、空気を肌で感じるような自然。そこに生きる子どもたちの生活感。
情景がありありと浮かび上がり、すっと物語の舞台へ入っていけるだけに、そこで起こる奇怪な出来事がより不気味さを増します。
村の秘密、火の見櫓の秘密とは。
主人公の少年は、その目を通して何を知るのか。そしてすべてが解き明かされたとき、何を思うのか。
細やかに敷かれた伏線が後半にどんどん生きてくるところは思わずうなり、ため息が出ます。人間の持つ希望の儚さや、業の深さなど、読み進めるごとに色んな感情が迫ってきます。そして、読み終えたとき、このひと夏の日々は少年にとってかけがえのないものだったのだと思えるのです。
読後、タイトルの意味するところがじわりと沁みます。一文一文、丁寧にじっくりと読みたい作品です。