第5話 新しい1日の始まり

「さあ、召し上がれ」


「いただきます」


いつもの母さんと僕に加えて芙蓉と夢乃さんが我が家の食卓に座っている

なんでこのメンツで朝ごはんを食べてるんだろう

全く解せないいや、理由はあるんだ

恐ろしい事に芙蓉のママの夢乃さんは朝ごはんを携えて我が家に来たのだ


「まあ、夢乃さんの作られた朝ごはんは美味しいですね」


「あら、あまり時間がなかったので手抜きバージョンですの

お恥ずかしいですわ」


母さんと夢乃さんが朝食を取りながら和やかに会話をしている

こう聞く限りは、中年女性の社交的で平和な会話なんだけどね


でも夢乃さんは僕に牙と爪で死の恐怖を与えたサキュバスなんだ

これだから女は、いやサキュバスは信じられない


「ほら、太一さんもいっぱい食べて下さいね、これからはこの味が太一さんの母の味になるのですから」


夢乃さんが自分がこれからは僕の母親だと主張する

サキュバスが母親とかふざけた話だよね

僕は不貞腐れて返事をしない


「こら、太一、なんなのその態度は」


母さん、この態度には正当な理由があるんです、言えないけど


「まあ、まあ、お母様、太一君も戸惑ってるんですわ

何しろ、急に環境が変わりますからね」


ううう、ムカつくぞ、そうだ、良い事を考えたぞ

昨日僕が夢乃さんの事をお母さんと呼んだら凄く嫌そうだったけ


「そう、環境が変わりすぎて付いていけないんです

それで、ついお母様の言葉にも返事ができませんでした

お母様もさぞかしご不快だったと反省したいます

お母様、これからはお母様を本当の母と思うように致します

ですから、お母様、どうぞよろしくお願いします」


お母様と何回言えたかな


「まあ、太一君、私の事をいっぱいお母様って呼んでくれて

私が母親になることが嫌なのかと心配していたのに

ああ、嬉しいわ、ありがとうね」


チェ、この位じゃ動じないか


「あら、こんな時間、太一早く学校に行かないと遅刻よ」


「あら、奥様、ご心配なく、車を待たせていますから、学校まで2人を送りますよ」


「そんな、ご迷惑では」


「あら、お気遣いされるほどのことではありませんわ

ついでですから」


夢乃は会社を経営していて車で出勤してるんだと

僕たちが通っている学校は通り道なんだと

サキュバスが社長とかビックリだね


文句は言ったけど、社長専用車は高級車だけあって乗り心地は最高だ

それにいつもより遅く家を出たのに学校には楽勝で間に合いそうだ


「竹蔵、ここで止めて」


芙蓉が運転手に命令を下す

こいつも偉そうだよね


「なに、ぼっとしてるの、ここで降りるわよ

この車で学校まで乗りつけたら目立ってしょうがないでしょう」


確かにね、僕は芙蓉に追い立てられる様に車から下ろされる


「じゃあ、貴方はここで五分待機してから学校に来てね」


「はあ、なんだよ、それ」


「あら、貴方は私と一緒に登校して、学校で話題になりたいのかしら

私はゴメンよ

だから、貴方はここで五分待機、分かったわね」


ふん、俺だって芙蓉と話題になるにはゴメンだね


「わかった、わかったから、さっさといけよ」


「まあ!、貴方に言われなくてもいくわよ」


芙蓉は踵を返すと長い髪を優雅に揺らして歩いてゆく

チェッ、ロリの癖に妙に仕草が様になってる

あいつ、お嬢様って感じだよね


そして芙蓉は僕の視界から消えて、僕は日常を取り戻す

さてと、普段通りに学校へ行きますか


「おおい。太一、数学の宿題やってきたか」


教室の席に着くと、俺のところに定期便がやってくる

今日も宿題を写す気だな


「なに、良二、また宿題をサボったのか」


「そう邪険にするなよ、お前と俺の中じゃないか」


まあ良二とは小学校からの腐れ縁だからな

宿題ぐらい写させてやるさ


「へへ、いつも悪いな

うん、なんかお前少しカッコよくなってないか」


良二が変な事を言う


「なんだよ、宿題を写させてやったぐらいでおだてるなよ」


「あん、なんで俺がお前に媚びなきゃいけないんだよ

俺は本当の事しか言わないからな

なあ、洋子、俺は太一の雰囲気が少し変わったと思うんだけどお前はどう思う」


「うっさいなあ良二、私をお前って呼ぶなって何度言ったら分かるのよ

あら、でもほんとうね、なんか太一が少し男に見えるじゃない」


なんだその言い草は、洋子の奴、僕を今まで男として見てなかったのかよ

まあ僕も洋子のことは女として見てないからお互い様か

幼稚園から一緒だと色々とお互いに知り過ぎてるからお互いの間に男女の感情は芽生えないよね


ほんと、こいつとは昔は一緒に風呂にも入ったのに恥ずかしいとか思わなかったしな

ああ、そうか、あの頃から変わらない胸がこいつに女を感じないんだな


「な、なによ太一、私の胸をガン見してるでしょう」


「ああ、悪い、ちょっと昔を思い出して変わらないお前に感動してた」


おっ、ヤバイ、洋子がビーストモードになりそうだ


「だいたい、あんたって昔から『きゃああ、芙蓉、なに、どうしたの、ちょっと胸が大きくなったんじゃないの』、そうよ私の胸だって、え、なんなの」


芙蓉の周りに女たちが集まってる


「うそ、芙蓉、本当に胸がある事がわかるわよ

それって、ねえ、良いブラジャーを見つけたからよね、どこ、どこのブラジャーを付けると胸があるように見えるわけ」


ケ、ケケケ、芙蓉の奴、胸が育ったとは思われないのな

まあ、僕は芙蓉の胸は見て平なのは知ってるんだけど

女子の間では誤魔化しも出来ないから、みんな扶養がペチャパイだって分かってるんだね


「な、なによミーシャ随分と失礼な事を言うのね、ブラジャーのせいじゃないわよ」


「ふ〜ん、じゃあ遂に芙蓉の胸にも成長期が訪れたって言うのかしら

もっとも、私には芙蓉の胸のどこが大きくなったかなんて少しも判らないのだけど」


ミーシャのやつ胸を揺らしながら芙蓉をディスってるね

白人とハーフのミーシャの胸は日本人離れした大きさだからな

芙蓉の胸が少しぐらい育ったからってミーシャからすれば誤差みたいなもんだろう


僕がミーシャと芙蓉の胸を交互に見ているとその視線に気付いたミーシャが僕にキツイ目を向ける


「ねえ、そこのモブ、貴方ごときが私の胸をガン見するなんて許されないの

さっさと、こっちを見るのをやめなさい」


ヤバイ、ミーシャの俺様キャラが僕に向いてきた

僕はミーシャの胸から目を逸らして前を向く


「ふん、性根が卑しいと行動まで卑しいのね」


これは芙蓉の声だ

ムカついた僕はモブの分際で口答えをしてしまう


「別にお前の胸は見てないぞ、って言うか見るべきものが無いよな」


「ガタ」


芙蓉の周りの女達が一斉に僕を睨む


「おい太一の分際で芙蓉になに言ってくれるの」


芙蓉の取り巻きの1人が僕に言葉を投げつける

芙蓉って、女子の間で意外と人望があるんだよな


「え、えっと」


「はん、ビビるんなら最初から喧嘩を売らない事ね」


うわ〜、怖えよ


「あはは、ねえ太一くん時には正直は人への害意となる『おい、ミーシャなに言ってるの』、だからよく考えてから発言はする事だね」


「はい、静かに、前を向いて、君たち私がきてるのにいつまでも無駄話はしないの」


先生がいつのまにか教室に来ていたようだ

僕的には助かったかな


「じゃあ、授業を始めるよ」


昨晩からの非日常が打ち切られて、僕の日常が再開されたみたいだね

まあ、同じ教室に扶養と言う地雷がいる中でだけどね


僕は甘かったんです、昨日までの日常はもう戻ってこないなんてこと時は1ミリも思っていなかったんです

でも、それは誤りでした

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