サキュバスは僕のクラスメート

第1話 サキュバス召喚

今はもう深夜、親も妹も寝ている時間だ

つまり、この家で起きているのは僕一人だ。


やるか...本当に?

どうしよう、いや今更だろう。

ここで躊躇してどうするんだ


今度の文化祭でオカルト部として実績を示さないとオカルト部は潰されてしまう。

今や部員は僕一人とはいえ、先輩から受け継いだ伝統ある部を僕の代で潰すわけにはいかないんだ。


その為にはヤルしかないだろう。


僕は自分を鼓舞するために僕の部屋の床に敷いた布に書かれている魔法陣を見つめる。


思い出せ、そしてやるんだ。


僕は自分を鼓舞する、僕は思い出す。

この魔法陣について書かれた資料を見つけた時に感じた高揚感を、そしてこの魔法陣を書き上げるまでに費やした苦労を。


この魔法陣に関する資料を見つけたのはオカルト部の部室。

正確には続き部屋になっている物置の中だ。


この物置には歴代のオカルト部の先達たちが残したガラクタ、いや遺物が残されている。

そんな遺物が無秩序に放り込まれて手に負えない状態になっているんだ。


なので僕は先輩からの引継ぎで強く言われたんだ。

この物置はアンタッチャブル、聖域、決して踏み込んではいけない場所なんだと。


なのに僕は踏み込んでしまった。

まあ、生徒会長から部が潰れたらさっさと部室を明け渡すようにとプレッシャーを受けたからね。

この倉庫に置かれているガラクタ、いや遺物を処分するための下調べが必要だったんだよ。


そして偶然見つけたのさ。

使い魔を招集できる魔法陣に関する資料をね。


そして思ったんだ。

本当に、僕が魔物を使役できれば、文化祭で一番注目を浴びる研究になるはずだ。

だれも、オカルト部を潰すなんて言えなくなる。


やるんだ、この魔法陣を僕の手で再現するんだ。

僕は資料を握りしめてそう誓った。


そして使い魔召喚の準備を始めた。


最初は思っていたよ。

資料に書かれている魔法陣を指定の大きさで書きさえすれば魔法陣は起動できる、簡単さってね。


でもすぐに頭を抱えることになった。

なんでだと思う。


問題は絵の具さ。

この魔法陣は血で書かなければならないんだ。


血だよ。この平和な日本でどうすれば血が手に入るのか。

例えば、輸血用の血液を盗み出す。


一瞬思ったさ。

でも、これはリアル、僕はご都合主義で何でもできるラノベの主人公じゃないんだ。

病院に忍び込んで輸血用の血液を盗み出すなんて無理な話だ。


そして、そこまで考えて気づいた。

僕はバカだ。

今時、血液をそのまま輸血するわけが無い。

成分輸血が普通なんだから、病院にだって普通の血液なんて無いだろうと。


行き詰った僕は頭を抱えた。

そして思い出した。

行き詰った時は原点に戻るりそれが鉄則だと。

そして、今回の原点は魔法陣について書かれた資料だ。


僕は丁寧に資料を読み返した。

そして見つけた。

血の全てが人の血である必要は無いという脚注が有るのをね。

そして、動物の血に一滴でも人の血を加えれば良いと書かれていたんだより


動物の血だ。

キミならどうやって手に入れるかい。

自分で動物を捕まえて殺して血を手に入れる。

無理だ。僕には無理だった。


なので、僕はお金を握りしめて養鶏場に行くことにしたんだ。

卵を産むことが出来なくなって処分するしかない鶏を購入するためにね。


そうやって手に入れた鶏の血に僕の血を一滴垂らした絵の具で書き上げた、僕の苦労の結晶の魔法陣。

足元に置かれている魔法陣がそれだ。


やろう。

僕は勇気を振り絞り、跪くと魔法陣の端に手のひらを置く。


そして何度も何度も繰り返し唱えて暗記した呪文を唱え始める。

急いで唱える必要は無いんだ。

ゆっくりと、はっきりと。

大事なのは正しく呪文を唱える事。


僕は間違えずに呪文を唱え終えた。

そして魔法陣が光りだす。


血で布に書かれた魔法陣の絵が光りに変わり、光の魔法陣が浮き上がりだすと、魔法陣の形をした光の筒が出来上がってゆく。

その筒の先が部屋の天井に触れる寸前

光の筒ははじけ飛び光の渦となり、僕の部屋に満ちる。


やがて、光の渦は徐々に消えてゆく。


そして魔法陣があった場所に、人、いや人に似た異形の影が写る。

その影は光の渦が消えてゆくのに反比例して濃くなってゆき、光の渦が完全に消えた時に実態となる。


「妾を呼びつけたのは小僧か」


僕の目の前にある異形から誰もがひれ伏さずにはいられない威厳に満ちた声が発せられる。


「どうした、答えぬか」


頭には角を生やし、爛々とした赤い目を持つ異形が僕を睨みつけている。

でも、あまりにも整った顔のせいか、恐ろしさよりも美しさへの興味が勝ってしまう。


その異形の姿は人を超越した八頭身の完璧なプロポーションだ。

そのプロポーションの中心にあるのは、豊かな双丘、おへそと胸の中間にある魅惑的なクビレだ。

そして引き締まった腰から連なる魅惑的な太ももと脚で完成される。


そんな魅惑的で完璧な身体は申し訳程度しか隠せないコスチュームに包まれている。

胸と股間を僅かに隠すだけの、けしからんビキニアーマーでだ。


その人を超越した魅惑的な魔物。

これはどう見てもサキュバスだ。

僕はサキュバスを使い魔として召喚することに成功したんだ。


喜びに僕の心が震える。

そして、僕は答える。


「ああ、僕があなたを召喚した」


「ほう、妾を小僧が召喚するとは良い覚悟だな。

それで、小僧は妾に何を望むのじゃ」


そして、サキュバスは口をわずかに開き、にやりと笑う。


「答えには気を使う事じゃな。

死にたくなければな」


開いた口から覗いた小さな牙に怯えながらも僕は答える。


「僕はあなたを僕の使い魔とするために召喚した」


その言葉でサキュバスの顔が怒りに染まる。


「ほおう、それはまた身の程知らずなことだな。

坊主、死にたいのか。

それとも、それに見合う代償を妾に与えるとでも言うのか」


妖しく光るサキュバスの目。

あの目は意に沿わない答えをしたら躊躇なく僕を殺す目だ。


どう、答える?

間違えば死だ。


怯えでサキュバスから逸らした僕の目が偶然にも録画中のビデオにあるモニターの画像を捉える。


はあああ???

そこには目の前にいるサキュバスの姿が映し出されているはずだ。

だが、これは?


僕の心から急激に怯えが消え去ってゆく。


だって、モニターに映るサキュバスはどう見てもロり体型だ。

胸は無く、お腹もポッコリしている。

小学生かよ!


そしてその顔はクラスメートの夢乃芙蓉そのものだった。


「さあ、答えよ。妾を使い魔とする代償を」


余りにも食い違う姿に僕は混乱し、考えも無く口走る。


「ええっ、お前芙蓉か」


「えっ、芙蓉?」


サキュバスが名前を反復し、そして自分の過ちに気付いて固まってしまう。


僕の頭に言葉が響く。


「誓約はなった、サキュバス夢乃芙蓉は代償を不要と言った。

よって、一切の代償を求めずに夢乃芙蓉は山田太一の使い魔となる。

この契約は山田太一が滅するまで有効となる」


やった、使い魔を得た。

得た、得たよね。

ええええ夢乃芙蓉が僕の使い魔なのか?


「ちょ、ちょっと、言って無い、言って無いから。 ねえ、可笑しいでしょう。嫌よ、代償はいるの、って言うか使い魔、私が使い魔とかあり得ないし、それに山田太一って」


焦りまくるサキュバス。

そこには先ほどまでの圧倒的な強者の姿勢は消えている。


そして絶世の美女と見えたサキュバスの姿が揺らぎロりバスの夢乃芙蓉が現れる。


「うわあ~、なにこの詐欺、あり得ない」


ロリバスのビキニアーマーは全くそそらない。

本当に詐欺だよ。


「ちょ、ちょっと、なに、なんなの、詐欺ってなによ」


「だって詐欺だろう。このロリバス」


「はっ、ロりバス。あんた何言ってんのよ」


これが、荘厳な雰囲気を纏った絶世の美女を騙るロりバス。

夢乃芙蓉と僕の腐れ縁が始まった瞬間だった


くっそお~、カモンバックサキュバス。ゴーホームロリバス。


まあ、そう叫んでも何も変わらないんだけどね。


あ~あ~、嫌になるよね。

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