第4話 僕と芙蓉は家族公認のカップルとなる

「それじゃあ、あんたがオカルト部で部室の倉庫で見つけた、古い魔法陣を使ったら芙蓉が召喚されたって言うんだね

判っていると思うけど、私に嘘を吐いたら許さないからね」


芙蓉のお母さん、マジ怖い、半端ない

だから、嘘は付きませんから

やめてくださいよ、その鋭い爪の先を僕の喉に突きつけるのは

それと牙、さっきより伸びてませんか、とんがってて怖いんですけど


「ハ、ハイ、その通りです

使い魔を召喚するはずの魔法陣を起動したら、何故か芙蓉さんが現れたのです」


「それで、うちの可愛い芙蓉に欲情して裸にしてベッドに引き込んだ訳だ」


「お母さん、ひゃあ、お姉さん、いくつかの誤解が解けていない様です」


「誤解ねえ〜」


刺すような視線で僕を睨むお母さん

視線だけで僕を殺せそうです


「ハイ、芙蓉さんが裸になったのはサキュバスの格好から人間の姿に戻ろうとしてサキュバスのコスチュームまでキャンセルしたせいですし、芙蓉さんをベッドに入れたのは芙蓉さんの裸を隠すためです

ですから、僕はベッドには入ってませんし

ベッドの中で取り敢えず、僕のパジャマを着てもらい、芙蓉さんの裸状態を解消した訳です」


「ふううん、芙蓉、こいつの言っていることは正しいのかい」


「概ね正しいです、でもお母様、山本には私の身体の隅々まで見られました

ええ、視姦されたのです

私の伴侶にしか見せてはいけない所まで見られました

あまつさえ、大切なそこを縦線などと、のたまったのです」


いや、それはお前の裸が僕の守備範囲を超えているって教えるための親切心なんだけどな

でもね、下手な事を言うと藪蛇だから言わないけどね


「そう、伴侶にしか見せてはいけない所を見られたのね」


「ええっと、お姉様、サキュバスにそんな貞操観念は無いですよね

だって、男の精を吸い取るために『はあああ』、いえ何でもないです」


「おまえは何か勘違いしている様だな

家畜の夢の中でどんな姿を見せて、どんな痴態を見られても所詮は夢の話

でも、おまえはリアルで可愛い私の芙蓉ちゃんの裸を見た訳だ

相応の責任は取ってもらわないとな」


「いや、僕などは所詮は家畜ですよね

家畜に責任を求められても」


「安心しろ、私達の家畜として精を提供する間は生かしておいてやる

良い精を出すには栄養状態も大事だからな

良いものを食わせてやるし、しっかりと健康管理もしてやるぞ」


どうしよう、このままだと家畜一直線だ

男には負けると判っていても引けない時がある

戦え、戦うんだ、僕


「お姉さん、僕の事を家畜呼ばわりして良いんですか

僕は芙蓉の使役者です

だから、僕が家畜なら芙蓉は家畜に使役されるサキュバスって事になりますけど」


「プチ」


僕の首の皮がお母さんの爪で切り裂かれた音だけ

まあ、裂かれたと言ってもここは夢の中、痛みはあるけど死ぬ事はないだろう


「ほう、口の減らないガキだな

そんなに死にたいか」


死にたくはないさ、でもここは夢の中

それに一生家畜とか死んだのと同じじゃないか

負けるな僕


「お姉さん、僕を殺しますか、それは止めた方が良いと思いますよ」


「ほお~、なんでだ」


「だって、芙蓉さんは僕の使役獣です

マスターの僕が死んだら、きっと...」


「きっと、なんだというんだ」


お母さんの爪が僕の傷口をゴリゴリして血が噴き出します


「知りたいですか、僕を殺せばわかりますよ

でも、そこで後悔しても知りませんけどね」


冷たい目、僕の心の奥底までも覗き見ようとするかのようだ

その目がジッと僕の目を見つめている


「ふん、良いだろう、お前はとりあえずは生かしてやる

だが、芙蓉の件はこのままには出来んな

どうするか

そうだな、人の約束事に利用するのも一興か」


どうやら、僕は殺されずに済みそうです

そして部屋に白いもやが満ちて視界が失われてゆくのです



☆☆☆☆☆



「太一、太一、起きなさい、起きるのよ、もう、さっさと起きるのよ」


母さんの金切り声がする

なんだ、なにか起きたのか


「なんだよ、母さん、朝から大声を出して」


「バカ太一、なに呑気な声を出してるのよ」


「う~ん、うるさいわね」


へっ、何、この声、耳の横から女の声がする

それにこの感触、この柔らかで温かなひと肌は何なんだ


「太一さんはお寝坊なんですね」


母さんの後ろからも声が聞こえる

でも、この声はこんなに優しいわけが無い


「むにゅ」


隣のひと肌が寝返りを打ったようだ

無いなりのおっぱいが僕の腕に当たってるよ

お前、僕のパジャマを着てたよな

なのに、なんで裸なんだ


「ほら、起きるの」


母さんが掛け布団を剥ぎ取る

母さん、それは悪手だよ


「な、な、何やってんのよ」


やっぱりそうなるね

後ろで芙蓉ママがにんまりしてる


「な、なんで裸、二人とも裸なの」


「う、う~ん、寝不足です、太一のせいです」


頼むからやめてくれよ、その誤解を助長するような言葉


「ねえ、芙蓉、それに太一君、まずは服を着ようか」


「えへへへ、もう、太一った私の裸を見すぎでしょう」


このサキュバス親子、お前ら打ち合わせ済みかよ


「お、奥様、申し訳ありません」


母さんが土下座してるよ

完全に嵌められたわ


「まあ、まあ、太一君のお母様、若い二人の暴走ですからお母様がそんなに恐縮しなくても

それに、私としては太一君が男らしく芙蓉に対して責任を取ってくださるのでしたらこの件は穏便に済ませたいと思いますの」


僕の責任、穏便に済ませる

僕をどうする気だ


「それで、責任を取っていただくにして、夢乃家の家風に染まっていただく必要もありますので出来れば太一さんを当家に暫くの間お預け頂きたいのですが」


芙蓉ママ、いったい何を言ってるの


「あのう、それって」


「ハイ、こうなった以上、太一さんには芙蓉の婿として当家に入っていただくしかありませんからね」


「ええっと、夢乃さん、失礼ですけどいささか急ぎ過ぎでは」


母さん、そう、そうだよ、もっと言ってやって


「えっ、えっ、えっ、ええええんん、そんな、太一さんは私を弄んだの

もう、私は太一さんの物にされて、えっ、えっ、太一さんと添い遂げるしかないのに

そんな私を太一さんは......エッ、エッ、エッ、エエエエン」


芙蓉、ウソ泣きうますぎだろう

今、指に唾を付けて目に持っていったよね


「芙蓉ちゃん、ごめんなさい、泣かないで、私が悪かったから」


ああ、母さんが陥落したね


「そんな、お母様が謝らなくても

でも、それじゃあ、お母様は2人の間を認めて頂けるんですね」


芙蓉、お前泣いてたんじゃ無いのかよ

なに冷静に話をまとめてるんだよ


「ええ、ええ、認めるわ、認めますとも

太一、責任を取ってしっかりと夢乃家の婿になれるように努めるのよ」


「きゃあ、うれしい」


うわあ、ダメだよ、ロりだって裸で抱き着かれたら僕のメンタルが持たないから


「お母様、若い二人は積極的ですわね」


「ええ、本当に」


えええ、僕は少しも積極的じゃないから

芙蓉が一方的に抱きついてるだけだから


でも、そんな僕の心の声は届くことも無く

こうして、僕は夢乃家に取り込まれることが決まったのでした

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