第6話 昼休みの一コマ

昼休み購買にパンを買いに行こうと教室を出たところでスマホが震動を始めた

誰からだろう

スマホを開くと芙蓉からメッセージが届いている

そう言えば、朝芙蓉に無理やり登録されたっけ


それでなんだって

はあ、東階段を上がって屋上に来いって

階段を上るのは良いけど屋上に出る扉には鍵が掛かってるだろう

屋上には出れないとは思うけど、取り敢えずは行ってみるか  


で、来てみたら扉の鍵が開いている

どうやったんだろうね

まあ、相手はサキュバスだからね

人智を超えた事も出来ちゃうんだろうね


「遅いじゃない」


屋上に出た途端、芙蓉から怒りの言葉が飛んでくる


「はあ、メッセージを見てすぐに来たぞ

それなのにその言い方は無いだろう

それで、何の用だ」


流石に自分の言い分に無理があった事は分かるらしく芙蓉が少ししおらしい表情になる


「これよ、お母様の言いつけだから仕方なくだからね、勘違いしないでよ」


「いや、これとか、勘違いするなとか、訳わかんないんだけど」


「お弁当、お昼のお弁当よ」


よく見ると芙蓉の手にはお弁当が載っている


「へええ、芙蓉はお弁当派なんだ

あっ、お前が急に呼び出すから購買でパンを買うのを忘れたじゃないか

うっそ、俺のお昼どうしてくれるんだよ」


「はあ、アンタってバカでしょう

今、私お弁当って言ったじゃ無い」


「もしかして、芙蓉のお弁当を分けてくれるとか」


「違うわよ、はあ、アンタって本当に理解力がないのね、ノミの頭とか言われてるんじゃないの」


「なあ、俺をディスるためにわざわざ屋上まで呼び出したわけ?」


「もう、本当に面倒くさいわね

ほら、これ食べなさいよ」


芙蓉が僕に何かを突き出してくる


「ほら、取って」


「あ、ああ」


これはお弁当だね

僕用ってことで良いのかな

芙蓉を見ると座って膝の上に弁当を乗せている

じゃあ、これは僕のだね


「あんた、なんでそばに来るわけ」


「えっ、俺と一緒にお昼を食べたいんだろう

芙蓉って意外に良い所があるじゃん

わざわざそのために2人分のお弁当を作るなんて」


「あああ。アンタはやっぱりノミの頭よ、私言ったでしょう、お母様の言いつけだから仕方なくって」


「ふうん、仕方なく俺に弁当を作ったんだ」


「ねえ、もう訳が分からないんだけど

私はアンタの部屋に泊まったわよね

弁当を作る暇なんて無かったでしょう」


「ああ、確かに」


そう言えばそうだね、芙蓉は台所に足を踏み入れてもいなかったわ


「はあ、やっと分かったのね

だからそれはお母様が準備したお弁当よ

分かったらさっさと食べなさいよ」


なんであのおっかない夢乃さんが僕にお弁当を作ってくるのだろう


「なあ、芙蓉の母ちゃんは俺の事を凄く怒ってたじゃん

なんでそんな俺にお弁当を作ってくれるわけ」


「あら、お母様はお弁当を作ったりはしないわよ」


「でもさっき」


「私は用意したって言ったはずよ

お母様には家事をする時間なんか無いの

お弁当は家政婦の夢が作ったのよ」


流石は社長様ですか


「じゃあなんで俺の弁当まで用意してくれるんだ」


「バカね、当たり前でしょう

貴方は我が家で飼うことになったのよ

家畜に餌を与えるのは飼い主の義務じゃない」


家畜、家畜って僕のことか


「なあ、家畜って俺のことか」


「そうよ、他にいないでしょう」


こいつ、本当に僕に対する態度がなってないよね

自分の身分も忘れてるよね


「ふ〜ん、じゃあその家畜に使役されてるお前はどんな身分なわけ」


「はっ、ふざけないでよ、誰がアンタに使役されてるって言うのよ」


こいつ、本当に理解して無いね

もう一度しつけ直すか


「我が使役獣である夢乃芙蓉よ、汝が主である、我、山田太一の命に従い妖艶なサキュバスの姿となれ」


「ちょ、ちょっとアンタ何言ってんの、ひゃあああ」


僕の命令で芙蓉は妖艶なサキュバスの姿になる

頭には羊のように巻いた角

先端がハートになった尻尾に牙も生えている


身体のシルエットも変わり

制服のシャツのボタンが飛びそうなほどに膨らんだ胸

長くなった脚に対して短く変わったスカートからは魅惑的な太ももが覗く

長い銀髪に赤く輝く瞳

魅了されたくなる位に美しい


でもね

魅惑的な芙蓉の胸に手を向けるとやっぱり突き抜けてペッタンな手触りが伝わってくる


この魅惑的な身体の幻影の中にヤッパリロリバスが実体としているんだよね


「はあ、アンタ人の胸をなんだと思ってるの」


「うそ胸、健全な男子を騙す偽の胸」


「キャハハハハ」


第三者の笑い声が聞こえる

えっ、僕と芙蓉の他に誰が居るの


「何がおかしいのよ、ミーナ」


芙蓉の不機嫌な声

ミーナ、えっ、ここって日本だよね


「あら、可笑し過ぎるじゃない、芙蓉が使役獣とかムッチャ笑えるんですけど」


「誰が使役獣よ」


「もう、芙蓉ったらそんな格好をしてるんだから惚けても無駄よ

そこの坊やに命令されてサキュバスの姿を見せるとか、笑えるんですけど」


「ふん、余計なお世話よ」


「あら、さりげに使役獣って認めるんだ」


「うっさいなあ、それでアンタは私に何が用でもあるわけ」


なんかこの2人って犬猿の間柄、そんな感じだね


「私が用があるのはアンタじゃないの、この坊やよ」


「いや、坊やって、同じ高校生だろう

それにいきなり来て人を坊やとか礼儀知らずな人だね」


「もう、坊やは何も知らないのね

私達サキュバスは長命種なの

見た目は同じでも生きている時間は同じじゃないわよ」


それってこいつもサキュバスってことだね


「それって、ロリババアってやつ」


「ババアだと、おい坊主、図に乗ると痛い目を見るぞ」


うわ、雰囲気が変わったわ

さっきまでホワホワした感じだったのが急に強面に変わったわ


「はあ、それで、偉大なサキュバス様が人間風情になんの用事ですか」


「わかり切った事を、お前の使役獣を私に譲ってもらいたいのよ」


「はあ、ミーナったら何言ってくれちゃってるのかしら」


芙蓉はおこおこですね


「使役獣は口を出すな

これは私と使役者の交渉だからな」


「いや、譲、譲らないとか、芙蓉は物じゃないし」


「物じゃないが、使役獣は魔法で譲渡が可能だ、そんな事も知らないのかしら」


ふ〜ん、魔法で譲渡とか出来ちゃうんだ


「いや、無理でしょう、僕は魔法とか出来ないし

それにこの使役獣は結構気に入ってるから他人に譲渡する気は全くないしね」


「えっ、太一は私のことを気に入ってるんだ」


いや、そこに食い付くなよ


「ほう、人如きが私に逆らうか」


いや、逆らうでしょう

何を根拠に僕が同意すると思ってるんですかね


「ねえ、ミーナだっけ、なんで僕が無償で芙蓉を差し出さないといけないの

それともちゃんと対価を用意してるのかな」


「対価、対価か、まあ確かに無償とはいかないわね

それで何が欲しいものがあるのかしら」


「そうだね、ミーナ、君が欲しい」


ミーナの透き通るように白い肌と光に輝く金髪は見事だしね

それに北欧系のスレンダーな体にはグラマスな身体とは別の魅力があるしね


「ふざけるな、誰が我が身を人如きに差し出すか」


「そう言わないでさ、ミーナに一目惚れしちゃったんだよね」


僕はそう言ってミーナの手を握る


「ひゃあ、あ、なに、やだ、いきなり手とか握らないでよ」


あら、手を握られただけで真っ赤な顔になるとか

ウブ過ぎるわ


「ねえ、ミーナ、僕は本気だよ」


「そんな、太一様、知り合った日から付き合うとか早すぎですわ」


おっ、急にお淑やかになったぞ


「そうですか、ならお友達からお願いします」


「お友達、お友達でしたら良いですわ」


「うわあ、ありがとう」


僕は嬉しさのあまりミーナを抱きしめる


「ひゃあ、そんないけませんわ、殿方に抱きしめられるなんて」


ミーナの目つきが変わります


「太一様、責任を取っていただきますわよ」


「えっ、責任ですか」


「そうですわ、太一様に抱きしめられましたもの

もう私は太一様にもらっていただくしかありませんわ」


いや、この人は何を言ってるんですか


「ばかねえ太一は、ミーナは男に耐性が無いんだから

知らないわよ、思い込んだらミーナは一途なんだから」


いや、おかしいでしょう

ミーナさんもサキュバスですよね

男の精を吸って生きていくんでしょう

それが男に抱きつかれたからもらってもらうしか無いとか

訳が分からないんですけど


「なあ、サキュバスの倫理観てどうなってるんだ」


僕は芙蓉に質問します


「だからアンタはノミの頭なのよ

物事を決めつけすぎなの

精を吸い取るのは食事、食事に過ぎないわけよ

それと男女の付き合いは別でしょう」


いや、一緒だと思うぞ

だって精って精子の事だろう

それを吸い取るってことは当然……」


僕の頭の中にエッチな妄想が広がります


「ねえ、食事のたびにアンタのチンポとか咥えないから

大体、今だって私はアンタと同じお弁当を食べてるじゃない」


そう言えばそうだね


「それに精の吸い方も判ってない

教えてあげるからちょっと指を出しなさいよ」


「指、指を出せばいいのか」


僕が突き出した人差し指を芙蓉が咥える

うわ、なんだこれ指先から何かがゾゾゾって抜かれる


「ご馳走様、太一の精をもらったわよ」


「えっ、精を吸うってこんな簡単なの」


「そうよ、判ったでしょう」


あれ、背中に悪寒が走ったんですけど

振り返るとミーナが血走った目で僕を見ている


「酷いです、太一様は私と付き合いたいって言ったのに

それなのに芙蓉に精を与えるなんて」


それからミーナのご機嫌を取るのは大変でした

そして気付いたら芙蓉とミーナに毎日精を与える約束を僕はさせられてたのでした








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