第2818話 差出人:小さな箱庭より
諸々の騒ぎや調節を何とか乗り切り、『アウセラー・クローネ』の新生クランハウスアトラクション部分の正式オープンは、来年の1月1日となった。フリアド内部でも特別な年越しだからな。そこに合わせるのが一番いいだろうって。
なお指輪に関しては、エルルは大体あの格好だし私も大体手袋をつけている。しかも動作の邪魔にならない魔法が込められてるとかで、手袋をつけるとその上からじゃ分からないんだよな。まぁ見せたら主に可愛い好きの人達がぶっ倒れたから、普段は隠しているぐらいでちょうどいいんだろう。
で。エルルとサーニャが戻って来たって事は、私の異世界行きに許可が下りたって事だ。どうやら直談判の結果はやはり試練だったらしく、そちらはその実、内部時間2日でクリアしていたとの事。
「どんな試練だったんです?」
「『勇者』としての能力を封じた上で、今までお嬢が戦ってきた大物との戦闘」
「流石に召喚者が山ほど集まって倒してた奴はちょっと弱くなってたけど、かなりいたね。……そうだよ姫さん。あの頭の数がものすごく多くて毒が痛い多頭の蛇竜がいたんだけど、あれ何?」
どうやら「百頭竜の剣」に超アップグレードするときの試練に出てきた奴も相手していたらしい。あれを事前情報無し&『勇者』特性無し&2人で倒せるとか、マジかよ。
ちなみにあれの解体の方法は凍らせるで正解だったらしく、凍っている間は毒性が発揮されないって事で、ルミ達に解体をお願いした。超々大容量の冷蔵室があって良かったな。あの巨体が入ったから。
……その素材の扱いに関してはまた別だが。どうしような、あれ。全身もれなくヤベーんだけど。あれが普通になったらそれこそ世紀末では? って気もするし。
「ところでこの書類の山は一体」
「お嬢がやった事だぞ」
「何? ボクも見ていいやつ? ……あー、困りごとの解決は良いけど、そこからトラブルになったんだ?」
その辺全部自動もといパターン化して何とかなるようにシステム頑張って考えたんだけどなぁ。……規模に比べれば随分書類の量は少ない? 高さ30㎝はある書類の山が?
とはいえこれを放置する訳にもいかないしなぁ……仕方ない。異世界行きは仕事してからか。私じゃなくて「第四候補」の仕事だろっていうのが混ざってるのは文句つけて突っ返すけど。
「そう言えば、2人は異世界についてどれくらい聞いてます?」
「環境が過酷だっていうのと、試練を受けた時に『勇者』としての力が使えなくなるっていうのは聞いた」
「何か倒された人数が多い程強くなる奴がいるとは聞いたよ」
……。ん?
「サーニャ、それちょっと詳しく」
「え? 確か姫さんの信仰してる神の世界だよ。なんかこう、黒くてのっぺりした人型で、近寄るだけで訳が分からないけど傷が増えて、それで倒れた召喚者が増える程にその範囲が広がるって」
「ちょ、まさかもうスリオロシが出現してるんですか!?」
「おい待てお嬢。何だそれ。名前か?」
コトニワ時代、遭遇したら大人しく死んどけとしか言われなかった最悪のザンシが出現していたらしい。あれ出現条件厳しかった筈なんだが!? 主に「庭」の設備関係が倒せる程度に充実する必要があるから!
……いや、だからか!? そうだな、確かに
……あ、ダメだ。ザンシ一覧に名前が無い。現地か話を聞いた中に他のコトニワプレイヤーがいたら分かると思うが、対策までいけるか、大丈夫か!?
「ところで前から思ってたんだが、お嬢の言う「ざんし」っつーのは何なんだ?」
ヤバい、と慌てて書類を片付け始めた私を見て、エルルが首を傾げた。え、あー、そうか。エルルとサーニャはマリーの説明受けてなかったな。その前に直談判に行って試練を受けて、そのまま自称婚約者候補達と戦ってたから。
え、っと、だな。
「……コトニワの世界が、終わりかけだったというのは話しましたね?」
「おう」
「聞いたよ」
「その原因が、破壊司る神々の暴走だと言うのは?」
「知ってる」
「共有されたからね」
うん。これを前提として、だな。
「破壊を司る神々は、破壊する事こそが権能で本質です。それが暴走した結果、その力を直接ただの人に向けられたら……まぁ、魂すらも残りませんよね」
「……そうだな」
「しかも暴走の理由、分からないんだよね?」
「分かりません。まぁそれはさておき、それでも直接神が力を振るう訳です。その影響は強く、また酷く理不尽な死を受けた人や動物の苦しみや無念といった強い感情が噛み合った結果……その「死因」が世界に焼き付いてしまいました」
本当にさぁ……案件なんだよな、これ。
ただの敵、破壊を司る神に対抗しようとして作られた自立兵器の暴走とか、破壊の権能が獣の形を取った実質的なモンスターとか、そういうのはともかく。
「それが世界から浮かび上がり、形をとったものを、ザンシ……「残滓」と「惨死」をかけた音で呼ばれるものです。強い神の力を直接受けているが故に、その「死因」をピンポイントで突かなければ倒せません」
というのが、ザンシについての基本情報だ。
なおかつ強いマイナスの感情が元だから、周囲の存在を無差別に攻撃するし、「壊れていない大きなもの」があったら壊す為に近寄ってくる。
だから、迎撃の必要がある訳だ。
「ちなみにスリオロシというのは文字通り「摺り下ろされた」事が死因です。故に、物理的に端から削らなければならず、それに使われるのはやすりの類でなければならない。なおかつその間も周囲に被害が出る為、倒すには非常に頑丈で大掛かりな仕掛けが必要です。何せ、ひとかけらも残さず「摺り下ろさないと」倒せませんからね」
だからこそ出現条件が「拠点の充実化」なんだが。そして、知らなければ対策しようも無いし甚大な被害が出るんだが。
とりあえず説明しながらクランメンバー掲示板には推定正体と警告と対策を書き込んだが、これ間に合うかなー? 現地の人は大丈夫かこれ。他の掲示板見る限り大惨事なんだが。
……あぁ、うん。そうなんだ。ほわほわのんびり庭造りゲームだと思うだろ? 違うんだ。
コトニワはな。
「理不尽な脅威と過酷な環境を、いかに仕掛けと構造で防衛しつつ復興できるかって
庭造りなんだけどな。もちろん「庭」の中をカスタマイズする分にはほわほわのんびりでもいいんだけどな。
……私だって、外周ぐるっと、「防衛用のエリア」があったんだぞ?
何でそんなものが必要だと思うんだ。当然「相応の脅威」があるからに決まってるだろうが。
小さな箱庭より、広い世界へ
贈られたのは、そこで紡がれた絆と、強い守りの加護
小さな箱庭では「絶対に必要」なものだったから
それは、広い世界をすら終わらせかけた脅威を退け
小さな箱庭の
フリーオール・アドバンチュア・オンライン 竜野マナ @rhk57
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます