別面:加速する混迷
「何で姫さんの所に行っちゃダメなのさ!?」
「緊急性の高い要救助者が多数確認され、現在も救助中だからです! この拠点が被害を受けた場合、立て直しが効きません!」
「そうだけどこれキリないじゃん!」
「人数が多い分だけ特殊モンスターがより集中しているとの推測です!」
「あぁもう! 数だけは多いなぁ! いつもの武器さえ使えればいくらでも吹っ飛ばすのに! チョコ食べてブレスでもダメなの!?」
「現状チョコレートで作られた武器による直接攻撃以外の有効打は確認されていません!」
「んもー!」
前線ではそんな会話が行われていたりしたが、実際余裕らしい余裕は、少なくとも召喚者側には存在しなかった。何故ならこのイベント空間で特殊モンスターを倒すと、必ずチョコレートをドロップするからだ。
いくら大容量のアイテムボックスを多数持ち込み、元『本の虫』組が収支管理をして、チョコレートの武器を作り続けていた所で、その容量には限界というものがある。
結果、インベントリの容量超過で動けなくなる召喚者がそれなりに発生し、そんな召喚者を安全な場所に移動させるためにさらに手が取られる、そして手が取られるとチョコレートの武器を作るペースが落ちて迎撃能力が下がり、動ける召喚者に負担がかかって、更に動けない召喚者が増える、という悪循環が発生していた。
「……ジリ貧だな」
「どうするたいちょー? 殿下だけ回収してくっか?」
「いや、少なくとも全体指揮を執ってる召喚者の判断はとりあえず正しい。妙な所で倒れてる召喚者の回収と搬送を続ける」
「はいよォ。まぁ普通に邪魔だし放っておく訳にゃいかねぇかぁ」
戦おうにも、武器が無いのではどうしようもない。それでもまだ1度、非常に上等な武器を配られた自分たちはまだマシな方だったのだろう、とエルルリージェは認識していた。
この空間では、竜族が専用の武器以外を扱えない原因、魔力による武器破壊が発生しない。だから最も武器を長持ちさせつつ最大限に戦えるアレクサーニャに武器を集めた訳だが、それでも恐らく間に合っていない。
しかし、武器が無い。傷をつける方法が無い。まさか魔法すら通らないとは思わなかった。まぁ全く効果が無いという訳ではなく、その副次効果、凍った地面に張り付いたり、半端に溶けて滑ったり、あるいは衝撃で吹き飛んだりはするようだが。
「にしても……」
全体の流れを見る。確かに混乱している。要救助者の捜索も大変だ。武器は足りていないし強制参加とかで拉致されてきた誰かの救助と保護は最優先だ。恐らく、自分達の最高責任者であるルミナルーシェでもそうする。それは間違っていない。
だが、何かが妙だ。不自然だ。違和感が、そうと気付かれないように忍ばされている感覚がある。何故なら今ここで、最前線で動き続けている召喚者は、間違いなく世界を救ったあの戦いでも同じように動いていた筈だからだ。
そう、確かに混乱している。やる事が多く必要物資が足りない。だが、「それだけ」だ。召喚者は、それこそ「慣れている」筈だ。守るべき相手を守りながら、用意するべきものを用意し、倒すべき相手を倒す。そういう困難に。
「……何で呼ばない」
だがその原因までは分からない。そして今の状況には必然と妥当性があり、それを壊すのは大きなリスクを伴う。よって、このままでは見えている通りにじりじりと、やすりで軸を削り取られるように追い詰められ、やがて守れなくなるだろう。
それを回避するには、大きな予定外の行動を取るしかない。リスクを承知で、妥当ではない行動をしなければならない。リスクを飲み込んでしまうしかない、現状よりもはるかに説得力と必要性のある理由で。
だからエルルリージェは待っていた。もちろん自身の手を空けている暇などないから、状況の悪化を最小限にする、或いは最大に遅らせる為に動きながらも。
主にして婚約者が自身を呼ぶ。
何をさておいても応じると決めているその声を、待っていた。