優しい大詐欺師と彼を巡る人々が紡ぐ温かい物語

 大詐欺師の高見半次がついにお縄について、その過去を語り出すところから物語は始まります。

 日中戦争初期(だと思うのですが……)、ひょんなことから軍医のふりをすることになった彼が舌先三寸と度胸であっと驚く結末を迎える第一話。
元女衒の社長を引っ掛ける彼の駆け引きと、最後に明らかとなる真意が見事な第二話。
 そして、行き場を失った子供たちとスリの大親分たちのなんとも切なくも心温まる第三話。

 どのお話も、いつもは飄々と——あるいはヘラヘラとしてさえいる半次さんの、時折見せる苛烈な怒りと、そこから鮮やかに事態を解決に導く手腕、そして、それだけでなく時に彼を救い、彼に救われた人々との関わりが何とも心に響きます。

 どんなに暗い世の中でも、悪人もいれば、善人もいる。
 暗いばかりでなく、救いの手を差し伸べてくれる人が現れることもあるのだ、と温かな希望を感じさせてくれる物語でした。

 おすすめです!

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