目の前にいるのに遠い人。

好きな人というのはなぜ自分だけを見てくれないものなのでしょうか。
こちらは相手の指の形や背の高さ、雰囲気まで子細に見尽くしている上、目の前にいるのに手の届かない遠い存在だとさえ感じてしまう。
心臓がもがれそうなほど切々とした思いを抱えているのに、相手ときたらまるで天然で何も気がつかず、どこまでも優しい。
優しいように見えて、甘い毒のようにも見える。
そんな男の子、柚木良悟少年を、誠志郎と
まひろの視点から描いた今作ですが、自分の手で自分の胸を切るような語り手二人の独白には息も止まる切迫さがありました。
今作はBLというものを全面に打ち出していますが、その枠を越え、誰の胸にもきっとある普遍的な恋情を、丁寧に描き上げていたように思います。
甘く苦いチョコレートを味わうように、青春の恋心の一ページを味わいました。