将来アニキと付き合える女(ひと)は幸せだと思うよ

真島誠志郎(ましませいしろう)と柚木良悟(ゆずきりょうご)は友達だ。中二の時に知り合って、妹を通じて知った漫画やゲームの知識が功を奏して、家で他愛のない話をする仲になった。

しかし、誠志郎が望むモノはいつまでも続く友情などではない。「柚木も俺と同属であれば、あわよくば――」そんな思いを否定しきれない誠志郎はある実験を思いつく。

中学最後のバレンタイン、柚木にチョコを渡す。
それが、残り少ない中学生活で誠志郎が取れる最後の方法だった。

妹は脈アリかどうか調べるための臆病な手段だと言った。それでも「将来アニキと付き合える女(ひと)は幸せだと思うよ」と背中を押した。その全ての行為が、厚意が、好意が、誠志郎を傷つける。お前の兄貴がチョコを渡そうとしている相手は――。

「このチョコレートは、きっと誰も幸せにできない」
そんなことは分かり切っているのに、誠志郎はチョコを渡す。

ちらちらと雪の降る放課後の学校。チョコを受け取った柚木が見せた表情は――。



誰にも分かって貰えない中学生が熱に溶けるお話。その舌触りはマイルドでビター。仲の良い妹の趣味、柚木の本心、綺麗なラッピングのチョコレート。それらがつながった時、声にならない嗚咽が聞こえた気がした。