安定限界

作者 姫乃 只紫

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★★★ Excellent!!!

 これを読んだ読者は、これはどうしょうもなく優しくて切ない物語なのだと読んでいて気付くでしょう。ツンと鼻に走る痛みが心の奥底に沈んでいた仄かな想いを呼び起こし、そうして……。

 ――これは確かに注意書きが必要だ。

 そう思わせるだけの"痛み"。それがこの物語には確かにあるのです。

 きっとこれは物語でなければならなかったお話。そうでもなければ、彼は文字を載せたその紙の端から涙で濡らさなければならなかった。或いは稚拙で酷く読みづらい散文として、晒さなければならなかった。

 人の想いとは、その中身が見えてしまうことがないよう、誰にも知られてしまわぬよう、丁重に甘い菓子を包む包装紙みたいなもので隠してしまわなければならないものなのでしょう。

 感情の濁流がいつか、溢れかえってしまうとそう知っていても。

 是非、皆様には彼の征く道を、或いは歩いたその道を見定めて欲しく思います。そして、今一度自分の胸に訊ねてみてください。そこにある自分の答えを。

最後にいつも素晴らしい物語をご馳走様です。これからも益々のご活躍、お祈り申し上げております。

★★★ Excellent!!!

海のある町で綴られる、理想的な男である先輩と、その恋人である「苦手なタイプ」の女子と、にもかかわらず彼女に惹かれていく僕の、三角関係にすらなれない三角関係の物語。

自分の気持ちをひたすらにごまかし続ける主人公。なぜいつもいつも踏みとどまる方を選ぶのか。裏側へ裏側へと思考が動くのか。それは自虐的であるとともに自己防御のようにも映ります。
けっしてはっきりと言わないのに言いたいことが手に取るように分かる一瞬一瞬の心の動きが切なく、なんとかはぐらかそうとしている時に限って棘のように刺さる核心のひと言がじくりと残って抜けなくなる。

ループする漣(さざなみ)はまるで彼女と僕のモチーフのよう。せっかく拾い上げた小石を地面に戻す仕草に、踏みとどまる者としての僕が表れているようでまた切なくなります。
文章はあくまで優しくきれいでおかしみさえあり、それが余計に痛みを感じさせます。
でもこれもひとつの青春だと肯定したくもなるのです。
登場人物それぞれの気持ちをなぞるように、丁寧に読みたい作品です。

★★★ Excellent!!!

 理由があって何もしなかったんじゃなく、何かするのが怖くて理由を付けた。そんな転倒に気付く20代、気付いた頃には遅い20代に深々と突き刺さる作品です。

 何もかも明け透けにしない描写は美しいだけでなく、心中語ですらあらゆる明言を避けるキヨモリの臆病さも表している所なのでしょう。
 きっと心の中でも言葉にしたら致命的です。だからハッキリとした言葉がひどく痛い、巧妙な構造です。



 本作を読めばきっと、最後まで臆病者でいたこと、誰もが目を背けるその自責に真正面から向き合わされるでしょう。覚悟の上お読み下さい。

★★★ Excellent!!!


小さな海辺の町で、小さな関係が波に揺られる。
独り言が洒脱な平野ことキヨモリ。闊達を絵に書いたような男前、植木先輩。アーモンド型の目をしたキヨモリの苦手なタイプの桐宇治さん。

僕は、桐宇治さんの隣は歩かない。
それは、とても自然で、ループする漣のように不自然で、何故か落ち着く距離。

歪さは熱を持ってしまっているが、もうどうしようもない。
純で、透明で、ずきずきと切ない。
痛々しい少年少女が海岸を侵食する波に漂うお話。

情けないキヨモリの気持ちが分かる人にはたまらない作品です。

★★★ Excellent!!!

本当に美しい作品ですのでみなさまにご一読をお勧めいたします。

高校一年生の「キヨモリ」くんは、先輩の植木くんの恋人、桐宇治さんに心ならずも心を奪われていきます。(その描写がとっても秀逸なのです……)
でも、植木先輩と桐宇治さんの間は……。

いろいろと感じました。
痛みとか悲しみとか。キヨモリくんもうちょっとがんばれや〜、あ〜、でもキヨモリくんの立場になったら「頑張る」のは無理だ〜、とか。
桐宇治さんも、どれだけ不幸な恋をしてきたんだろうと思うと、悲しみでいっぱいになります。
不安定な関係の末に行き着いたキヨモリくんの選択がはがゆく痛ましく、これ以上ないほどに眩しくて愛おしいです。

それを彩るのが落ち着いた透明感のある文章。
浜辺の風がどことなく吹くような、潮風の香りが漂ってくるような、そんな感じを受けました。

えぐられる人はかなり相当えぐられる作品だと思いますが、ぜひみなさまも読んでいただければと思います!

★★★ Excellent!!!

僕のありもしない青春の傷がえぐれました。あんな経験はしたことは無い筈なのに不思議です。ああ、いいなあと思いつつ、あいたたたと呻きつつ読みました。この作品を読めて良かった。書いてくださってありがとうございました。

追記:
他の方のレビューで「本当に美しい作品」と書いてあってその通りだなと思います。 作者の姫乃只紫さんの作品はどれも透明感があって美しい。そして読めばそのあまりのうまさにゾクリとするんです。僕はこの作品を初めて読んだ時に幸福感で一杯でした。こんな素晴らしい作品に出会えるのかと(その一方ですげー痛くて呻いていましたけど)。実は読んでから大分時間が経っているのですが、この作品にいくつもある美しい情景が脳裏に焼き付いて離れません。
あと、姫乃さんの人物・心情描写って細やかでそして残酷なんです。そして僕はその残酷さも好きなのですが、誰か分かってくれる人がいるかな。