「怖い話を集めているのって、君?」先輩が言った。そして、失踪した。

小さいころから怖い話が好きで会う人合う人から怪談を蒐集している私が出会った先輩との一幕。

――あまり怖くないけど。
そう言って、語り始めた先輩の話は荒唐無稽ともいえる、不思議な話だった。



先輩の語る話には身をすくめるほどの恐怖や畏怖は含まれていません。むしろ、恋慕、思慕といったほほえましい感情を掻き立てるような話です。

ですが、それを語る先輩。そして、失踪後の出来事。これらが組み合わさった時、すっと知らないうちに身に入ってくるような怖さが辺りを包んでいることに気付くでしょう。

怖さもあるのですが、全体的にしっとりとしていながらも爽やかな雰囲気です。そのため、不思議と幻想の霧雨に包まれているような感覚でしたし、最後にはカラッと晴れる。この気持ちの良い読後感と裏に潜んだ底知れなさのバランスがすごいですね。

雨が上がったあとの匂いのように。
どこか、郷愁と現実を感じるのです。