訳あり錬金術師と翼を持つ少年の錬金術をめぐる非日常な日常。

 錬金術師と聞いて、みなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?

 いろいろな素材を集めて不思議なものを創り出す。そんな淡いイメージはありつつも、その作業風景や日常は想像しにくかったりもするのではないでしょうか。

 この物語では、ちょっと訳ありな錬金術師テュエンと、翼を持つ少年レムファクタが出会うさまざまな人々や事件を、錬金術というその不可思議な技を中心に据え、真っ向から描いています。

 この物語の素晴らしいところは、その不可思議な技や世界観がごく自然に生活の一部として描かれていて、店を訪れた客が身につけていたメダリオンに触れ、この世界には錬金術を学ぶ大学があることが伝わってきたり、ちょっと厄介な客がもちこんだ依頼をテュエンが錬金術を解決することで、この世界では錬金術がどのようなものなのかを、まるでそこにある当たり前のもののように感じることができます。

 そして物語の中心となる錬金術、その素材の名前——星鉄鋼や夜想菫、白鷹草など——だけでも、もうワクワクしてしまうのですが、日常風景だけでなく、悪鬼ゴブリンや喰屍鬼グール、ドワーフの遺跡やエルフ文字なども登場し、これでもかとファンタジー要素がぎゅぎゅっと詰め込まれています。

 子供の頃、『はてしない物語』やさまざまなファンタジーの物語でその世界に浸って楽しんでいた人も多いのではないでしょうか。そんな方には特におすすめの、鮮やかで深い、ここではないどこかの、けれどとてもリアルな世界の物語。

 複数エピソードで構成される一話完結型なので、まずは第一話だけでも!
 美しい描写と、魅力的な登場人物たちが織りなすこの物語の虜になること間違いなしです!

その他のおすすめレビュー

橘 紀里さんの他のおすすめレビュー939