アナタの家を知られてしまった

早起ハヤネ

第1話 ダンス部マネージャー

 加賀玲緒奈かがれおなは高校女子ダンス部のマネージャーをしている高校二年の男子である。彼はダンス部で部員たちが日々ダンスレッスンに打ち込む姿を見るのが好きで、そのサポートのため、入部したのだった。

 部員は全部で十九名。

 今は一ヶ月後に控えた学祭で披露するためのコピーダンスの練習をしていた。

 鏡の前で汗を流して、跳ねたり、回ったり、手足を伸ばしたり、全員で振りを合わせている。一時、休憩が顧問の宇部陽子うべようこ先生から言い渡されると、加賀はメンバー一人一人にタオルを配って回った。

「おつかれさまです」

 笑顔でねぎらいの言葉は必ず忘れなかった。

「よう。なかなか目立っていてよかったよ」

 最後にタオルを渡したのは、三列目の右端で踊る友人の男子、鳴子層雲なるこそううんだった。人気女性アイドルグループ『カレードスコープ』の曲をコピーしているので、この男だけ浮いていて、一番の見せ場の振りが来ると悪いとは思っているのだが、思わず噴き出してしまう。

「オマエもいつもいつもご苦労様だな。その汗のついた女子たちのタオル、すぐに洗えよ。匂い嗅ぐとかナシだ」

「当たり前だろ。オレは健全なマネージャーだ。変態じゃねーよ」

「変態といえばそこにいる青池瑛斗あおいけえいとくん、今日も見学に来てるじゃねぇか」

 青池瑛斗というのは、同級生の男子生徒で、ほぼ毎日ようにダンス部レッスンの見学に来ている彼こそが本物の変態と言えるかもしれない。彼の目的はカワイイと評判の人気実力ともに兼ね備えた御三家と言われる女子三人だった。

 この日のレッスンが終わると加賀はメンバー一人一人にペットボトルの清涼飲料水を配って回った。

「ホントにオマエ気が利く男だねぇ」鳴子が褒めた。「ルックスもまぁまぁイケてるが、オマエがモテる理由はそこなんだろうなぁ」

「別にモテてねーよ。両親には悪いが顔だってフツーだよ。写真写り悪りぃし」

「それにつけてその謙虚さ。いいね〜俺も見習いたいぜ〜」

 この日の最後に宇部先生から学祭の発表会の時のフォーメーションが発表された。加賀も緊張する瞬間だ。これには、実際のアイドルグループと同様、悲喜こもごもたくさんのドラマがある。

 鳴子が帰りにカワイイ女子三人組をカラオケに誘ったが、一人榎本来夢えのもとらいむだけは居残り練習をするといい、それに加賀も付き合うという話になると、他の女子二人は加賀くんが行かないなら、とカラオケを断った。

「…玲緒奈、オマエのせいだぜ」鳴子が恨み節をぶつけた。





 榎本来夢えのもとらいむは、二列目の一番右端のポジションだった。部員全体から見れば、まちがいなくカワイイし、ダンスも上手なのだが、フロントメンバーの二人と比べてしまうと抜群にダンスに秀でてカワイイというわけではなく、なんというか、もったいない子だった。

 負けず嫌いで、努力家で、誰よりも一生懸命な子だった。フロントメンバーにはなるのは彼女の念願だったが、今回は二列目だった。

「二列目だったら、良くも悪くもみんなの踊りが見られるし、三列めのメンバーに良くないところも指摘してもらえるじゃん。勉強しとこ。それに列なんてカンケーないと思うよ」

「加賀くんにそう言われると嬉しいけど、やっぱりわたしはフロントに行きたいよ。悔しい。加賀くんはわたしのこと、どう思う?」

「榎本はダンスパフォーマンスはパワフルでスゴいと思うし、なにより悔しさをバネにできる人だと思うから、今回、三列目から二列目に上がったんじゃないのかな」

「でも、菜穂と光はフロントメンバーだよ。菜穂はセンターだし。あの子たちに負けたのが一番悔しいよ」

「今回は曲で選んだんじゃない? わりとしっとりとした曲だから。ガンガン盛り上がる曲だったら、センター榎本でもいいと思う。オレは」

「だけどさ、この世にはセンターポジションが約束されているような天性の才能を持った絶対的エースみたいな子がいて、逆にいくらガンバってもセンターにはなれないし、フロントにも上がれない子っていうのはいるんだよ。アイドル見てたらわかるじゃん。わたしその上がれないタイプだと思うんだよね。そういう子ってどうすればいいんだろう…」

「他の子にはない、これだけは絶対に負けないっていう特技だよね。そういうのを身につけたらいいと思うんだけど…自信を持つことも大事だと思う。自信のある人って、それだけで輝いて見えるから」

 加賀は手を叩いた。

「さあ、榎本さん、そろそろレッスン再開しよう」

 榎本来夢は先生が来るまで鏡の前で踊り、加賀は時々アドバイスを交えながら、見守った。


 

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