第9話 恥辱
なんて事はなかったいつもの日常の教室の昼休みの風景。
鳴子と一緒に弁当を食べていると誰がテレビをつけたのか、そのテレビにいきなり加賀の姿が映った。加賀が自宅の部屋にいる様子を写した映像だった。アダルト動画を見ながらマスターベーションをしている姿だった。アダルト動画と、加賀が果てた時の音声も流れている。
教室がザワザワし始める。加賀は頭が真っ白になった。すぐに立ち上がってテレビを消した。
意味がわからなかった。経緯もわからなかった。記憶にもなかった。そもそもマスターベーションをしている姿を自分で動画にする行為などやったこともなかった。
この動画を作成して教室に流したのは俺じゃない。
てゆうことは、いったい誰だ。消去法で検討していくと、俺じゃない、俺のはずじゃない、でもこうやって動画が流されている。どうやって撮る? 俺の部屋にカメラがあった。では、それは誰がやったのか。俺の部屋に入れるのは両親しかいない。だが、両親がこんな動画を撮り、教室で流すはずがない。じゃあ、誰なのか。何者かが俺の部屋に侵入してカメラを設置したとしか思えない。そして、不思議なのは、最近俺の家に遊びに来た友人は一人もいないということだ。
「ちょっと加賀こっちこい」
担任が手招きして教室から出て行った。教室の外で担任に詰問された。
「あのわいせつ動画を流したのは君か?」
「違いますよ。そんなバカみたいなことしないでしょ」
「うーん、誰のイタズラだろうな。だが、ああして動画があるわけだから、君の家で間違いないね?」
「ええ、でも誰かが監視カメラを設置したんだと思います。その誰かがわからないんですけどね」
サイアクの恥だった。マスターベーションをしている姿など人として一番秘めておきたい事項であり、それを他人に見られるというのは最大の恥辱ではないだろうか。
この日はダンス部に行くこともなく、すぐに下校した。母はまたいつもの井戸端会議だった。鍵が開いていたのでそのまま入り、部屋へ行き、制服を脱いだ。
机の上に日記が開いたまま置いてあった。
一番最新のページに、身に覚えのない文字が書かれてあった。
『わたしだけしか見てはいけない』
赤いマジックペンで殴り書きのようだった。
この状況を見て、加賀は戦慄した。
これは絶対に何者かが部屋に侵入して自分の日記に書いたとしか思えない状況だ。加賀はビクリとして部屋を見渡した。クローゼットを開け、ベッドの下をのぞき、ドアを開け、恐る恐る踊り場を見た。トクトクと心臓の鼓動が聞こえる。盗撮のカメラはどこに見当たらなかった。ひょっとしたら、もう回収したのかもしれない。回収したということは、あれからふたたび部屋に侵入したということだ。
わたしだけしか見てはいけない
どういう意味だろうか。
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