第6話 無言電話
レッスン中、見物に来ていた青池瑛斗に無言電話のことを話した。
「怖いね、それ」
「調べたらさ、まだ携帯電話が普及していない昭和とか平成の時代には、よくあったらしいんだ」
「マジで?」
「家電はほら、着信履歴とか着信拒否とかないじゃん」
「加賀くんめちゃめちゃイイ人だけど、どっかで恨み買ってんじゃないの。心当たりある?」
「ない。てゆうか、買ってたとしてもわかんねーよ」
「じゃあ、何者なんだろうね。無言電話っていまローカルで流行ってんのかな。期待薄だけど、ちょっと見てみよう」
青池はSNSで調べてみたが、案の定、そんなウワサはどこにもなかった。
翌日、部活が休みだったので、家に帰ったら、リビングを通った。
いきなり家電が鳴り響いた。
加賀はギクリとした。思いの外ビクッとなったので、俺はビビリか、と内心で自虐した。
ヒットソングなどの着メロにしておけばいいものを、黒電話のジリリリというけたたましい音だから、余計ビビった。
また無言電話だろうか。時間帯もこの前と一緒だった。十六時半。
加賀は電話を手に取った。
「もしもし…」
「もしもし、加賀さんのお宅ですか? いまお時間よろしいでしょうか? わたくし、〇〇会社の田中というものですが、加賀さんのご自宅のプロバイダはどこをご利用されていますか?」
「お時間ありません。プロバイダも変更しません」
「いま弊社にご変更いたしますとスマートフォンのご利用料金も…」
「けっこうです!」
加賀は通話を切った。よくある勧誘の電話だった。
驚かすな!
内心悪態をついた。あまりにビビりすぎている自分自身にも悪態をついた。
電話を置いて気づいた。
留守電が入っている。
それも一分おきに何回も。
数えたら、三十回もあった。
どれも無言だった。
背すじを冷たい手で撫でられたようだった。
誰かに見られている気配を感じ、リビングの広い窓に張り付いて周囲をうかがった。
もちろん誰もいなかった。
すぐに留守電を消去した。
そして家の鍵がかかっているかどうかすぐに確認した。
鍵はかかっていなかった。
鍵をかけようとしたら、外で母と近所のオバさんが井戸端会議をしていることを思い出し、手が止まった。
別な日、下校すると玄関ポーチの前に、カラスの死骸があった。
目玉が飛び出し、口から臓腑を吐き出していた。
まるで何者かが両手に挟めてそのまま握りつぶしたような姿だった。
郵便ポストを開けたら、カッターで切り刻まれたような新聞紙が入っていた。
なんだこの嫌がらせ。
呆然と立ち尽くしながら、周囲をうかがった。
誰もいなかった。
だけど、なんだ。
この見張られているカンジ。
まるで自分がか弱い草食動物で物陰に潜んだ肉食動物に狙われているような緊張感と、焦燥感
ヤバい、と胸の内で警鐘をガンガン鳴らしているのに、硬直して一歩が踏み出せない、ヘビににらまれたカエル状態。
この夜は、姿の見えない何者かに見張られているような気がして、一睡もできなかった。
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