第7話 居残りレッスン

「加賀くん、今日はお疲れ様」

 幽谷菜穂が加賀に挨拶をした。

「ああお疲れ様。幽谷さん、今日はいつにも増してキレキレだったよ」

「ありがとう。これからヒマかな?」

「とくになにもないけど」

「じゃあ、ちょっとだけ付き合ってくれないかな?」

「いいよ。どこ行くの?」

「どこってわけじゃないんだ。学祭で着る衣装なんだけどね。どれが似合うか、見てほしいんだ〜」

「オッケー。そろそろ本番に向けてリハーサルが始まるもんなー」

 職員室に用事があり、宇部先生から本番のセットリストの書かれたプリントをもらい、その途中、廊下で榎本来夢とすれ違った。ぶつぶつ言いながら浮かないで加賀に気づくこともなく通り過ぎて行った。

「あ、榎本さん。元気ないね。どうしたの?」

「あ〜まだ学祭まで少し余裕があるからって増やした曲の振りが全然体に入らなくってね。どうしようか焦ってる」

「だいじょうぶか?」

「だいじょうぶ、じゃない。これから居残り練習するんだけど、自分じゃどこがダメなのかわからなくって。もしよかったら、加賀くん、見てもらってもいいかな?」

「え」

 加賀は即答できなかった。幽谷との約束があったからだ。

「ダメ…?」

「ああ、ゴメン。ちょっと用事があったんだけど、別に今日じゃなくてもいいから」

 加賀はスマホで幽谷にメッセージを送った。

『ゴメン、幽谷。榎本が本番までダンスの振りが覚えられなくて困っているから、衣装合わせは明日でもいいかな? もしよかったら、試着したものを写真で送ってくれてもいいし』

 加賀は榎本の居残りレッスンに付き合った。

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