第2話 結城光
レッスン中、何度目かの通し練習の時、二列目の一部の女子たちの間でケンカが起きた。どうやらメンバーの一人が隣のメンバーに大きく手を広げる振りの時にぶつけたり、何度も同じ振りを間違えるのでイライラが爆発したようだ。
「ちょっとイタいわね。ぶつけないでよー」
「ゴメン」
「もうすぐ学祭近いんだからねーちゃんと振り覚えてよ。これで何回目?」
「みんなに合わせられるようにガンバリまーす。…けど」
「けどなによ?」
「田中さんの踊りが早すぎるのもあると思う」
ダンス部リーダーの
「二人ともやめて。ケンカしている場合じゃないわ。お互いに協力しあってやらないと。できないところはみんなでカバーする。集団でパフォーマンスするダンスってそういうチームプレーがなによりも大事だと思う」
「リーダーはできるからそういうこと言えるんですよ」イライラした佐藤が不平たらたらに言った。「ダンスはできる人ができない人に合わせるんじゃなくて、できない人が死ぬほど努力してできる人に追いつくべきです」
「あなただって口で言うほど実力もないでしょ。だから二列目なんだよ。あなただってセンターの菜穂ちゃんに比べたら、極楽鳥とカラスよ」ケンカを売られた田中も負けていなかった。だが、今の言い方は他の二列目のメンバーを遠回しにディスっていたため、二列目のメンバーからも不平の声が上がった。引き合いに出された
「揉め事なら大歓迎です。オレが最後まで話を聞きましょう。一人一人部室へ来てもらえますか? それとも、全員いっぺんの方がいいですか?」
一人ずつということになった。
一番最後がリーダーの結城光だった。彼女を二年生ながらリーダーに推したのは、顧問の宇部先生である。人望、度胸、ダンスに対する姿勢、責任感、ムードメーカー、個としても美人で背が高くタレントのモノマネが得意など際立ったキャラを持っているのに、自分が目立つことよりチームの底上げに徹する献身的な姿勢など、加賀の目から見ても彼女はリーダーにふさわしかった。だが、この時の彼女は地球の重力を受ける以上に重く落ち込んでいた。ため息をついた。
「加賀くんが入ってくれなかったら、私には事態を収拾することができなかったわ。リーダー失格ね」
「そんなことないよ。結城さんはしっかりやってる」
「しっかりやったらああはならないわ」
「ダンス部のみんなは個性が強いからねーぶつかり合って言いたいことぜんぶ吐き出しちゃえばいいんだ。結城さんは行きすぎたメンバーが互いにつぶし合わないように見ていればいいと思う。オレがエラそうに言えないけど」
事態を聞きつけた宇部先生がやってきて、加賀に向けてこう言った。
「ありがとう加賀くん。女子ばかりで大変だろうけど、あなたはわたしのお気に入り男子」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます