最終話 まさか君が

 二階の窓から外を見ると母がまだ近所のオバさんと井戸端会議をしていた。その二人の死角を縫うように白のワンピを着た一人の若い女性と思われる人物が通りすぎて行った。加賀家の玄関の方へ向かったようだ。

 加賀はうろうろした。

 スマホを手にして、パソコンのマウスを手にして、据え置きゲーム本体を手にしたり、分厚い単行本を手にしたりしたが、どれもおぼつかなかった。

 なにかが近づいてくる気配がした。

 誰かが階段を上がってくる。

 吐き気が込み上げてきた。

 加賀は週刊誌のマンガの最新号をお守りのように手にした。

 何者かがドアの前で止まった気配がした。

 一瞬、なにも起こらない沈黙の後、ノックされた。

『コンコン』

「誰だ!」

『コンコンコン』

「誰だって聞いたんだ! 答えろ!」

 カチャリ…

 ドアが開いた。


 幽谷菜穂だった。

「なあんだ。幽谷さんか。遊びに来るんだったら、インターフォン押してくれたらいいのに…」

 加賀の表情がこわばった。

 幽谷菜穂の手に包丁があった。

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アナタの家を知られてしまった 早起ハヤネ @hayaoki-hayane

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