これも、青春の一つなんですよ。
甘い青い甘酸っぱい。インターハイで汗を流す。勉学に打ち込んだあのころ
それだけが青春? それのみが青春? いーえ、違いますね。
これも立派な青春です。これが青春じゃなくて何が青春なんですか。
最後のほう男の子が連問します。どうして、どうして、どうして。
彼女の青春が、今だからじゃないかな。
そして、とある言葉でこの作品は終わりを告げていきます。
少年よ、青春はいつだって君を迎えてくれるよ。
ぱっと見どうにもならない話かもしれません。ひっでー話かもしれない。しかし「深読み」すると行動原理が見えてくるお話です。行動するための何かが見えてくる作品です。久しぶりに深読みした。
これも青春なんです。そう、青春は無限の形を持っているんです。
主人公の男子高校生は、早朝の学校で勉強をしていた。そこに、不登校のクラスメイトが入ってくる。主人公は彼女を鮮明に覚えていた。
何故なら主人公は、彼女の「世界」に足を踏み入れ、「神」のような彼女を見たからだ。彼女の家に書類を届けに行って、彼女の部屋に入った。薄暗い部屋で、彼女はパソコンに向かって、ひたすら文字を打っていた。小説を書いているという。即ち彼女は、本当に「世界」を作っていた。そんな彼女を主人公は神々しいとさえ思った。そして彼女は主人公の受け答えに、「つまらない」と言いながら、いつも笑っていた。
この日も、彼女は主人公を笑った。そして彼女は主人公に問う。
「どうして学校に来たと思う?」
そして彼女は言うのだ。
「世界を救うためだよ」
彼女が作り出す世界と、神のような彼女。主人公が抱いた彼女への嫉妬。
最後に彼女は自分に今度会うことがあったら、名前で呼ぶように言う。
そして主人公は――。
文章がきれいで、その文章で構成された世界観も鮮やかでした。
日常の何でもないところを切り取りつつ、このような作品に仕立てられるところに、作者様の力量がうかがえます。
是非、御一読下さい。
序盤は、主人公がクラスメイトと話しているだけのシーン。
ところが、あるセリフにドキッとさせられる。
引き込まれるように読み進めていくと、ひとつひとつのセリフが、語句が、描写が、とても示唆的であるということに気付く。
「この言葉はこれを意味していたのか」
「このシーンはこの比喩だったのか」
と発見するたびに、何度も読み返した。
闇と光。
閉じた世界と、その中に広がる広大な宇宙。
戸惑いと希望。
持つ者と持たざる者。
主人公とヒロインが互いに「どうして」と問い合うシーンが熱い。
迷うことなく真っすぐ答えるヒロイン。
考えて、悩んで、迷ったあげく、結局答えられない主人公。
……ああ。ここからして二人は既に「違う」存在なのだと突き付けられる。
価値がないと判断すれば、わずか数秒でひとつの世界を捨ててしまうようなヒロイン。なんと強いのだろう。
凡人の私には、その強さが恐ろしい。
そして、ヒロインが主人公を「つまらない」と評した言葉の意味に気付いてしまう。
そうだ。そうだろう。「あなたのような人」から見れば、どんな人間だってつまらない存在に成り下がってしまう。
でも、その中に微かな希望がある。
登校したばかりの時間は「まだ薄暗い」が、
ヒロインと話しているうちに主人公は「光が差す」瞬間を見る。
それはヒロインにとって新しい世界が始まる瞬間であり、二人にとっての別れの瞬間でもあり、あるいは、主人公が希望の道を歩き出す瞬間であるのかもしれない。
だからこそ、主人公は最後にヒロインを「見つける」。
物語全体に広がる圧倒的表現力。圧倒的世界観。
哲学的だとすら思う。
物語を読み終えて思う。
まさに【聖願心理】その人が、神様なんじゃないか、と。