宮勤めの無学なお針子は、ひょんなことから、
溌剌とした才色兼備の妃嬪と顔見知りになる。
お針子には秘密があった。武芸ができるのだ。
それを妃嬪に知られてしまったからさぁ大変。
妃嬪とは皇帝の側室で、後宮に暮らしている。
お針子が出会った彼女は、いまだ乙女だった。
彼女は自らを妹とする義姉妹の契りを提案し、
お針子はその夜から妃嬪の姉となってしまう。
ところが、秘密の義姉妹の仲睦まじい関係は、
後宮に現れた不審な武芸者によって絶たれた。
お針子は投獄され処刑を言い渡されるのだが、
これは皇太子と巡り会う運命の始まりで──。
大唐帝国の華やかな後宮が舞台となっており、
登場するオジサンたちが有名人だったりする。
彼らをも巻き込みつつ盛大に開催されるのは、
女によるガチ武芸コンテスト、景品は皇太子。
果たして、お針子上がりの武侠系ヒロインは、
舞踏会ならぬ武闘会でいかなる舞を披露して、
皇太子様の心をつかむシンデレラとなるのか?
読者よ読者、共に続きを楽しみにしましょう。
スピーディな展開と豊富なアクションに彩られた娯楽小説。
私は武侠小説がとても好きで、金庸はかなり読んだほうに入ると思います。なのでこの作品も大好きです。
ただ日本であまりメジャーなジャンルではないので、これをやるとすれば、中華後宮だろうか? という話は以前からネットで出していました。そして古月さんに「はよう中華後宮武侠伝を書きましょう。書かないと俺が書きますよ」とあいかわらず無礼な発言をのたまっていたところ「うーん勉強が必要ですね」と言う返事だったので、むう、これは遠回しなお断りかなと思っていたのですが。
わずか1か月後に開始しましたね(笑)
そして内容は期待通り。流螢と徐恵という二人の関係を通じて艱難辛苦を武術で突破していく話なのですが、一貫性のあるキャラクター、多々ある伏線の回収、史実の反映もあり、かなり読みごたえがあります。
といってもとりあえずチャンバラがチャンバラで女の子が女の子ですから、まずはそれを楽しみましょう。この手の作品にしては多少複雑ではありますが、読んでりゃ追いつけます。
実はこの作品、途中で一時期中断していたのですが、そこで読むのやめるともったいないですよ(自戒)。ラストとか結構ニヨニヨできるからみんな最後まで読んだほうがいいよ。むしろ何度も読み込んでググりまくって古月さん作品のマニアになりましょう。沼へ落ちとけ。
なんにせよ、とてもありがとうございました。
一目見てお分かりの通り、タイトルもキャッチコピーもいたってシンプル。
この作品はその名の通り、後宮モノと武侠モノを見事に融合した「ジャンルの垣根」を叩き割りにかかる作品です。
後宮モノの華やかな世界観の描写は言うまでもなく、女性たちの友情と愛と政治の狭間で揺れ動く一見凡庸な主人公の心情にぐっと引き込まれながらも……
バトルシーンでは、劇画調のアニメのような濃密で手に汗握る展開が繰り広げられます。(そしてその手数の多さはさすが古月さんの力量があってこその為せる技!)
本来なら相反するように見える二つのジャンルが良い意味で作品の緩急を生み出し、ぐいぐいと引き込まれていきます。
本レビューを書いている現在、最新話では誰が黒幕なのか分かりそうで分からないもどかしい展開になっています。
……あれ、もしかして「ミステリー」のジャンルの垣根まで軽功で飛び越えようとしてます?
中国拳法を描きたかったから中国の古い王朝ぽい世界にしただけで、基本は単なる武侠小説と言う認識で読み進めた。それでも素直に面白いと熱中していたら、最後の後日譚で驚いた。
これって史実を踏襲した歴史小説だったんですね。
主人公が、市井じゃないけど、無名な人物だから、中国史と関係してくるなんて予想もしてなかった。
ネタバレには相当しないと思うが、日の光を浴びる歴史上の人物で言えば、あの大帝国の唐王朝の二代目から三代目にかけて。
ここからはネタバレに注意しながら書くが、Wikipediaは三代目を馬鹿にしている。史実では日本の白村江の戦いにも関係してくる、彼の妻も本作品にはシレっと登場している。
作中で流布される不吉な「武…」の噂話も、後付けで史実を知ると「あ、はん‼︎」みたいにニヤリとするガジェットだ。当時の巷間に流れたか否かは存ぜぬが、何とも細かい設定である。
脇役から言及してしまったが、主人公も興味深いキャラだ。先に「無名な」と形容したが、だからこそ映画タイタニックのディカプリオみたいな存在感を放つ。女性ですけど。
主な舞台が後宮なので登場人物の過半が女性だけど、深い意味で殆どの人物が中性的。フェロモン度は希薄で、奥深い人間性のキャラ設定がなされている。
まさかの後宮を舞台にした武侠物だ。
それも、魔法も神秘もない、頼みは己の功夫だけというガチンコである。
武侠物ということで、アクション シーンの大部分は白兵戦闘なのだが、その描写が秀逸だ。
攻防をほとんど一手ずつ描写しているはずなのに、テンポが落ちず戦闘の緊迫感を損なわない。
「ブルース リーのアクションを読んでいる」ような感覚を各章で堪能できる。
話の本筋である陰謀劇は、非常に複雑で読みごたえがある。
多数の登場人物が、きちんと自分の思惑を持って行動している。
さらに、主人公は陰謀劇の端でちょろちょろする立場なので、入手できる情報は限定的。
このため、陰謀劇の全体像はラスト バトルまで明らかにならず、緊張感を維持して飽きさせない。
この濃密な描写は、史実を舞台にしたことで成立した。
役職、制度、服装、建物などの風景、地理などの描写は最低限に絞られており、唐代の中国をイメージできることが前提条件だ。
ちょっと分からない単語が出ても、ググれば解決する。
もし架空王朝を舞台にしていたら、全てを説明しなければならない。
それでは情報量が多すぎて、読者が物語に集中できなくなっていただろう。
色々書いたが、「ぶげいタイムきらら」のタグに嘘はなかった。