第二章:一発屋、始動!

第9話

 何でも屋の仕事――それは文字の通りに、なんでもやる仕事である。


 蓮達は朝比奈との手続きを終えて、ビルの一室にオフィスを構えたのはいいものの、あるのと言えばホームセンターで安く買い叩いたテーブルとソファ、デスクにはこれまた、秋葉原のジャンクショップでパーツから作り出した傑お手製のパソコンが置かれている。


「早く仕事こねぇかなぁ?」


 蓮は社長という肩書きを自慢げにしているのだが、未だにフリーターという現状に憤りを感じながら、Qwitterを見やる。


「まぁ、できて二週間目だしなぁ。傑、ホームページの方はどうだ?」


 宏はタバコをふかしながら、窓の外を見やる。


「んー、まだまだかかりそうだなぁ。いろんな設定とかあるんよ」


 傑は専門学校や独学で学んだHTMLの技術を使い、ホームページを作成している。


「てかよ、まだここ看板もねぇし、あると言えばSNSのアカウントの宣伝ぐらいじゃん。まだ内線電話の手続きとかしてねぇし、気長に待つべ……」


「そうだな。……ん?」


 蓮はSNSの通知を食い入るようにして見つめる。


「初仕事だ。……なになに?黎明町で 蜂の巣の駆除を頼むだと? うわぁこんなんできねーや」


「まぁとりあえずやるべ、傑、とりあえずネットで道具とか調べろ」


「あぁ、そうするわ」


 傑はパソコンの操作をやめて、ウエブで蜂の巣の駆除用の道具を調べている。


「まずは電話して聞かなきゃな」


「そうだな」


 蓮は、Twitterに書かれている連絡先に電話を入れる。


「もしもし、先ほど連絡をいただきました、一発屋ですが……」


「あー、本当だここ店やってるよ!」


 電話の向こう口からは、若い男の声が聞こえる。


「あのう……?」


「テメェらじゃ売れねーよバーカ!」


 向こう口からは、ゲラゲラという笑い声が聞こえてくる。


「なんだとテメェ! しばくぞこのガキ!」


 蓮はそう言って電話を切った。


「誰からだったんだ?」


 宏は不安そうに蓮に尋ねる。


「単なるいたずら電話だ……」


「はあぁ、先行きが不透明だな……」


 傑達は大きな溜息をつく。


「そろそろバイトの時間だから行くわ」


 蓮は溜息をつきながら、インターネットで購入したグレーのシャツチェスターを羽織り身支度をする。




 蓮のバイト先は、黎明町から3駅離れた水神町であり、そこで単発の派遣で倉庫番をしている。


 水神町には企業が多くあり、企業から離れた場所には荷物を置くための倉庫がある。


 時給900円程度、時間は17時から深夜0時までの7時間拘束の仕事を、蓮は生活の為に仕方なくやっている。


 宝くじで儲けた金は、無駄遣いしないようにと正明達が預かっているのだ。


(あーあ、つまんねーな……)


 二人一組でやる、ただ倉庫番という時間があり余る仕事を、蓮は文句の一つや二つ言わずに、タバコも我慢してやり続けている。


「小田切さん。そろそろ休憩しようか」


 別の倉庫で番をしている、蓮の相方はにこりと笑いながら蓮にそう言った。


「はい」


 蓮の相方の片桐竜司(カタギリ リュウジ)は、何か私生活で悩みがあるのか、仕事で溜息をついてばかりである。


(こんなかっこいい人に悩みでもあるのか、どうせ恋愛とか何かだろうな……)


 蓮は竜司とはあまり話さないのだが、顔つきは端正で整っており背も蓮と同じぐらい高く、痩せており無駄肉がないため、どうせ恋愛か何かだろうなと思いながら、竜司の後に続く。


 竜司と共に近くの自販機に出向き、置いてある灰皿でコーヒーを飲みながらタバコを吸っていると、竜司はふと何かを口走る。


「あーあ、便利屋さんでもいればなぁ……」


 ややソプラノが入った声で、竜司はそう呟いて、タバコを口に咥える。


「?」


「あ、いや、独り言だよ。ここら辺に便利屋さんとかいるかなぁと」


「あぁ、一応俺副業で便利屋をやっています、なんなら話しを伺いますよ」


 蓮はここぞとばかりに、営業をかける。


「!? 君が便利屋さんか。実はね、俺の弟が一月ぐらい引きこもっていてね。出さして欲しいんだよね」


「ええ、良いですよ、できたら話を伺いたいのですが……」


「うーんとねぇ、今年大学受験に失敗しちゃってね、高校出て浪人生をやってるんだよ、なんかね、予備校の志望校判定が悪かったらしくてね、部屋から全く出なくなっちゃったみたいでね、予備校にもいかないし、食事以外は外に出ないんだ……」


「そうですか、ならば、早速お伺いさせていただきますね、連絡先を後で交換しましょう」


「そうだね、そろそろ時間だしねぇ、後2時間の辛抱だからねぇ」


 彼等はタバコを灰皿に入れて、それぞれが持ち場へと戻っていった。




 蓮は竜司と連絡先を交換して、明後日仕事がないときに水神町の喫茶店で落ち合おうと話をし、『サーフィン』に足を進める。


 店内は食いログの影響で繁盛しており、カウンターには傑達が陣取って酒を飲んでいる。


「傑、仕事見つけたぞ!」


「まじか、良かったなあ!」


 傑達は蓮の報告に顔をほころばせる。


 ようやく仕事が見つかり、彼等は安堵の表情を浮かべる。


「実は俺も仕事が見つかったんだよ、とは言ってもガキの子守だがな。暇してるニートが遊んで欲しいんだとよ」


 傑はTwitterを自慢げに蓮に見せる。


「ふーん、なになに、1時間1000円でカードゲームの相手をして欲しい、か……どんな奴なんだ? また悪戯半分のやつじゃねぇだろうな?」


「いや、水神町の子だ。年は俺の二こ下。名前は片桐健太って子だ」


「片桐? 奇遇だな、俺が依頼を受けた人の名字も片桐って人だ」


「ふーん、まぁ、水神町で片桐って名字は結構いるからな。他人か何かだろうな」


 宏はビールを口に運ぶ。


「ねぇ、新メニューが出たんだけどどうかな?」


 凪は蓮に、新メニューのポップを見せる。


 パソコンで作ってあるポップには、1500円でドリンク2杯、好きなおつまみ二種類と書いてある。


「いいね、それにするわ、てかな、お前パソコンできたっけ?」


「ううん、傑に作ってもらったのよ。1000円でね」


 傑は得意げな顔をして、ビールを口に運ぶ。


「お前パソコン詳しいからな、よっしゃ、お前はうちの会社のIT担当だ!」


 蓮は傑の肩を軽く叩いた。


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底辺労働者の俺、会社をクビになり起業して不景気な現代社会で無双する! @zero52

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