第14話 アビリティ・ツリー
「す、凄いです、なんだか頭が痛くなるくらい、色んなものが理解できますよ、これ! もしかはしたら、私は宇宙の真理にたどり着いたのかもしれません!」
「能力移植のさいに、手にはいる一時的な全能感だ。よくある初期症状に過ぎん。すぐにおさまる」
ハイテンションで脱法ハーブに侵された顔するスズへ柴犬フェイスマスクを被らせ直し、周りから変な目で見られるのを阻止する。
ここはグンホー本社、その一階のロビーだ。
出入り口の警備員には当たり前のように止められたが、俺の能力があれば突破はたやすかった。
「ああ、えっと、そこの方。あなたここの社員ですか?」
男が怪しげな者へむける顔で、話しかけてくる。
暑くなってきたせいか、シャツ一枚でクールビズする男は、公用チェアに座する俺の隣に腰をおろした。
男が席につくなり『
「ん」
これで、彼はもう俺の質問を無視できない。
次に俺は再度『
人間の言語の特徴は、他の生物と違って嘘がつけること。それを奪えるアドバンテージは大きい。
手元に2本のスクロールがくれば、準備は完了だ。
これで俺はどんな情報でも、この男が知っている限り、聞きだすことができる。
相手の質問には答えず、こちらから質問をかえす。
「あなたはアプリ開発に携わっていますか?」
手始めにする質問はこんな感じ。
男は質問を無視した相手からの問いかけに、素直に「Yes」と答えてくれた。
この男がプログラマーである可能性が高くなってきた。
だが、まだ能力は奪えない。
この男がプログラミング技術を、もっている事を確定させなければいけない。
ゆえに俺は質問を重ねて、彼自身の口から、彼がどんなスキルをもっているのかを吐かせる。
「ーーシステムデザイナーですか。いいですね。その能力、いただきます」
ついに本人に役職と、保持するスキルを喋ってもらうことに成功し、男へ収穫の『
最後に『直近30分の出来事の記憶を保持する』を能力として奪いとれば、これまでのやり取りは忘れてくれるだろう。
このように『
奪取目標として、本人のいずれかの能力を定めて仕舞えば、そこまで繋がるように質問を中継することで、いかようにも相手の内側から能力を奪えてしまう。
異世界で編みだしたアビリティ・ツリーと呼ばれる技法だ。
過ぎ去っていく
と、その時、
「珍妙なことをしてくれるな、大英雄」
大きな、重苦しい声がロビー全体に響きわたった。
聞いたことのないその声は、ポストモダンかつ清潔感溢れる広さを揺らして、確かに俺に向けられていた。
相手は俺のことを知っているらしい。
ふりかえり、俺の名を呼ぶその人影をーーロビーの奥から出てくる黒スーツに身をつつんだその男を
いつからか、もはやロビーに人影はなく、ただひとりただずむ穏便でないその男の姿は、空間に異様なほど不和と尋常ならざる空気を刻みこんでいく。
その風貌は圧巻の一言に尽きる。
黒髪、赤い瞳。筋骨隆々、かつ引き締まった印象をうける無駄のない鋼のようなたたずまい。
広い肩幅、長い足、背丈は190センチに迫ろうかという日本人離れした体躯。
とても特徴的だ。
だが、見覚えはない。
大英雄と言ったか。ともすれば、一方的に俺のことを転生者、あるいは帰還者だと知っているのだろうか。
奴もまた、異世界からの帰還者ということなのだろうか。
「グンホーの警備主任を任されている、
男ーー氷室はジャケットめくり、懐から銃を取りだす。
「たった今から、お前を殺す」
有無をいわさぬ断言。
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