第12話 路地裏の尋問


「スズ、これを被るんだ」


 ジョークグッズ屋で買った柴犬の被り物をかぶらせて、素顔をかくす。


「アキラさんも被るんですか?」


 隣で見上げてくる犬顔。


「まぁ、効果あるかわからないけど……それなりに役に立つとは思う」


 首をかしげる彼女についてくるよう指示をだして千代田の中央街へとむかう。

 スズにはかなり反発されたが、ここまで来たら何としても我が社のための能力を持ち帰りたい。


 撃たれたというのに、おちおち帰れるほど大英雄のプライドは安くないのだ。 


「たくっ、借金踏み倒したくらいで……」

「え? 今なにか言いました、アキラさん?」

「ぇ、ん? い、いや、まさか? 何も言ってないです、けど? うん、ね、うん」

「……」


 柴犬の眼差しがジト目に見えるのは錯覚だろうか。

 

「アキラさん、あとでゆっくり話しましょうね」

「話すことは何もない……ん、来たぞ」


 まえから近づいてくる、2人の自治官。


 人目につかないよう路地裏を進んでいたが、しっかり彼らの目は闇のなかまで張り巡らされているようだ。


「止まれ。その怪しすぎる風貌を見逃すと思ったか? 我々はただいま逃亡者の捜索中だ。捜査にご協力願おう」


「嫌だと言ったら?」


 俺のみせる僅かながらの反発する態度に、自治官は眉根をあげ、トンファーを腰にかけて逆手で銃を手にとり、黙って構ってきた。


「恐ろしい街だよ、まったく」


 ゆっくり手をあげて膝をつく。

 

 自治官は権力、あるいは暴力にひれ伏す俺が面白いのか、愉快に口角をあげてちかづいてくる。


 だが、わかってない。

 俺は一瞬、それを使うのを躊躇してくれれば十分だというのに。


「!」

「っ」

「ぁ……」


 3人分、しっかりとスクロールを回収。

 地面に散らばる複数のスクロール。


 奪ったのは彼らの『視力』『聴力』『直近30分の記憶を保持する能力』たち。


 感覚のおおきなウェイトを奪われ、直前の記憶すら失った自治官たちは、口をあんぐり開けて、立ち尽くすばかり、完全な無力化とはこのことを言う。


 俺はゆっくりと近づいて、ひとりずつモダン・エゴスA1をホルダーごと回収。


 後、二人を羽交い締めにして優しく締め落とし、能力を変換しておく。あまりおかしな状態で放置すると、俺を超能力者と勘違いしたによる捜索が始まってしまうゆえの、対策だ。決して慈悲ではない。


 50年も血生臭い戦いをしていれば、殺生与奪、戦場での他者への配慮などドライになるものなのだ。


 銃は握りつぶしたら足がつきそうなので、2丁はゴミ箱へほうり捨てる。

 

「スズ、ちょっと離れてるんだ」


 スズをひとつ角の向こう側へ。残った自治官ひとりを、路地の暗闇に連れこみ、装備を没収して能力を変換する。


「……はっ! ここは、一体!?」

「おはよう、千代田の自治官」


 奪取した銃の照準を、男の額にあわせる。

 すると、自治官の顔からみるみるうちに、血の気が引いていき静寂のなかに緊張が溶けはじめた。


「立場をご理解いただけてなにより。俺の名は重課金アギト。どうして俺は指名手配されてるのか教えてくれないか?」


 消費者金融の借金踏み倒しがバレたにしろ、どのみちどこらへんから情報が漏洩したのかは知っておくべきだ。能力の穴を明らかにして、立ち回りでそこをカバーする。


 ずっとやってきた事だから、慣れたものだ。


「そ、その銃は、そうだ、お前には使えないはずだ! 自治官の銃には適切な使用者でなければ、トリガーのロックが外れないようになっている! ハッタリは無駄だぞ……!」


 自治官はゆっくり立ちあがり、腰のトンファーに手を伸ばした。


 存外に冷静な男である。

 まったくもってその通りなので、相手に把握されている以上、使えない武器を持っていても仕方ない。


 重いため息をつき、銃口をだらりとさげた。


 危機がさるやいなや、自治官は得意げな顔をしてトンファーを手元で遊ばせ、「銃を返せ」と命令してくる。


 素直に命令に従って返してやろう。

 もっとも真っ二つに引き裂いて、小分けにした返還だが。


「ヒェッ!?」


 自治官は腰を抜かして、トンファーを取り落とし壁際へとはって下がっていく。


「お、お前! 超能力者……! なんで自治官がこんなこと……。頼む、見逃してくれ! 知らなかったんだ! 俺は上からの命令に従っただけだ……っ!」


「なんの容疑かも分からないのか? はぁ……それじゃ、そのうえはとこだ?」


 手に持つスクロールで肩をたたきながら、尋問を続ける。

 嘘はつけなくした後の質問だ。つまり、こいつは本当に俺の容疑を知らないことになる。

 

 なんだか怪しい香りがしてきてではないか。

 

「そ、そりゃ……この街の管理社、グンホーからだろうよ」

 

 どうやら、本社へと向かわなければいけない理由が他にもあったようだ。

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