第6話 吉祥寺の怪しい買取屋

 

 能力ガチャをするためには、ガチャ自販機を設置しないといけない。


 そして、その前に、ガチャの中身を用意しないといけない。


 そう、つまりは仕入れ。

 まず能力を収穫しないといけないわけだ。


 とにかく沢山である。


 あてのない人ひとりの足で回収して回っていては、流石に限界があるというもの。

 そのため、向こうから来てもらうことにした。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 華やかな街、吉祥寺きちじょうじ

 昼間でもおかまいなく、大企業の広告が、画質の良い電光掲示板いっぱいに流れていく。


 そんな駅前に陣取り、ブラック企業で鍛えた愛想スマイルを道行く人々にふりまくのは、これ俺、重課金アギトだ。


 だんだんと熱くなってきて、肌に夏を感じさせるこの頃。

 涼しげな格好の老若男女が往来する場へ、投入した唯一の戦力を生温かく見守るのが俺の務めである。


「あなたの特技を教えてくれるだけで、5000円プレゼントいたします! さぁさぁ、 お立ち寄りください! 希代の天才占い師の謎活動にご参加ください!」


 中身はアレな、見目麗しい看板娘が、怪しすぎる街頭宣伝を一生懸命におこなってくれている。


 彼女の容姿はまったくもって問題ないが、内容が内容だけに、駅にくりだして来た時は正直、見向きもされないのではないかと、内心ひよっていた。


 だが、人というのは珍しいもの、謎なものを追求する癖があるのだろうか。これが意外に人が集まるから面白い。


「5000円って本当ですか?」


 釣られてやってきたのは、若き男子高校生。

 部活帰りの途中か、後方では、おなじウィンドブレーカーを着こんだ少年達がたむろしている。


「ええ、もちろん。あなたのもつ個性、特技、経験、人格、記憶、どんなものでもいいので50個ほどあげてくれますか?」


「50個!? す、すみません、そんなに特技持ってないです……」


「いえいえ、必ずあるはずです。どんな些細な事でも構いません。例えばほら、ここに500円玉があるでしょう? これをひっくり返す。ほら、これは『500円玉を表から裏にひっくり返す』特技じゃないですか」


「そんな事でいいんですか? それじゃあ……ペンを手で持てます、とかは?」


「エクセレント、素晴らしいです」


「授業中すぐ寝ちゃいます。あと、右手がありますとかでもいいですか?」


「いいですよ、その調子です」


「あとは、弟がいます、友達がいます、人と喋れます、サッカーができます、それと、我慢強いですーー」


 およそ2分、たっぷりの情報を得て、そのなかから頂けそうなものをいただく。


 すべては貰わない、否、


 概念的な事象は、基本的に奪ってもバレにくい。


 またその能力が訓練や日々の生活で、ふたたび身につくのを待てば実質的に、その能力は再生する。


 例えば『ペンを手で持てる』という能力。

 もし『能力化コンプレッション』したら、きっとこの男の子は、明日の午前中はペンを持てなくなるだろう。


 しかし、何もペンが持てないだけで、指が無くなったわけでも、腕の筋肉が破壊されたわけでもない。


 ゆえに、何度か挑戦するうちにペンの持ち方は思いだすはずだ。


 しかし、『右手がある』、これは危ない。


 このあたりは俺にも判定がわからない可能性が、多分にあるからだ。


 いや、十中八九、異世界の経験からすると、『右手がある』という能力を奪ってしまった場合は、このサッカー少年の腕自体が消滅するだろう。


 流石にそうとなれば、俺はとても責任を取れないし、オカルティックなこの怪しい謎ビジネスも続けられなくなる。


「うわっ、すげぇ、本当に5000円もらえたじゃん!」

「俺もやろ!」

「俺も!」


 電子貨幣5000円が送金された画面をかかげ、少年が仲間たちにかこまれていく。


 すぐに、サッカー少年たちがはしゃぎながら、嬉々としてこぞって迫ってきた。


 よしよし、いい感じだ。


 後部の彼らには、先に特技を50個を紙にでも書いてもらって待っていてもらおう。


 俺はそんな事を思いながら、生成した『スクロール』を俺自身に『施しチャリティ』していく。


 基本的に外部から付与した能力は、重複することが可能で、おなじ『ペンを持つ』という能力をいくら被せても、溶けてひとつの能力になってしまうことはない。


 ゆえに荷物がかさばらないように、すぐに『施しチャリティ』するのが、長年の経験上、吉だ。


 ただ、俺が受け取るに危ない能力たちーー見た目が変わってしまうなどのスクロールたちは、背後の段ボールへ放っておくが。


 この日、俺たちは日暮れまで、加速度的に増していく人の波をなんとか制御して、雑多な能力を回収しまくった。


 そのほとんどが、取るに足らない凡能力だが、必要とする者にとっては垂涎すいぜんものの能力である。


 それに、いくつかの貴重な能力も獲得できた。


 おおむね能力集めは順調と言えるだろう。

 きっと次は、もっと人がくる。

 ともすればより多くの人材が欲しいところ。

 何か策を考えないといけまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る