第4話 なるほど、ガチャですね


 

 俺の考えていたビジネスは、特単純であった。


 スクロールに変化させた能力を、売りさばき、億万長者になる。


 はじめのうちは、ただ能力を売りさばく闇のブローカーみたいな立ち位置を想像していた。


 だが、売っているうちに気づく。


 これ闇金事務所から金盗んでたほうが、儲かるのでは……と。


 もちろん足を使って稼ぐのには、限界は生じるだろう。

 良心の問題もある。俺だって出来ればそんな小物界の大物みたいな生き方はやめて、光のなかを歩きたい。


 それでも、5人ほど、この闇のブローカーを続けてみた。そして、結論を出したのだ。やめよ、って。


 どうしても、コレじゃない感が否めなかったからだ。


 異世界では仮にも大英雄と呼ばれ、魔神が完全に復活するまえに仕留めて世界を救った男だ。

 

 もっと何かできるのではないか。


 俺のビジネスは白紙にもどった。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 マイホーム、リビングの大卓のうえで買い換えた最新スマホで何気なくソシャゲのガチャを回す。


 相変わらず、望んだSSRが出てくる。


 廃課金していた身としては、嬉しいことこの上ないのだが、こうも簡単に出てしまうと、ちょっとありがたみというものが薄い。


 いや、もちろん死ぬほど嬉しいのだけどね。


「またガチャしてる。最近は石の配布がなかったのに、そんだけ景気良く回してるってことは、またお金借りたんだ」


 リビングに入ってくるなり、とがめるように告げる綾乃あやの

 この数日の献身で、クソ親父とは言われなくなったが、俺への根本的な評価が変わったわけではない以上、その態度には冷たさとトゲが宿る。


「綾乃、楊貴妃ちゃんは当てたか?」

「いや、あの子可愛くないから、いい。そっちこそ当てたの?」


 黙って画面を見せる。

 すると、綾乃は驚いた顔で口元をおさえた。


 その隙に、綾乃の画面に映し出されていたガチャを回してしまおう。


 ポチっとな。


「あぁぁあああッッ!? 死ね死ね死ねぇえー! まじで冗談になってたいんだけど、ほんっとマジで死んで何やってんの!」


 流れるようなワンツーを首をふっていなし、ガチャの行方を見守る。

 すると、単発で引かれたガチャは確定演出とともに、楊貴妃ちゃんを綾乃のスマホにお迎えした。


「ッ! ぇ……? や、やったぁぁあっ! 嘘!? えっ、ほんっと、最高! 単発、単発で出たよ!」


 コロコロ変わる娘の表情にニヤニヤを隠せない。

 ぴょんぴょん跳ねながら画面をスクショする綾乃は、「これで運営に一矢報いた!」と拳を掲げてご機嫌に近寄ってきた。


「今朝、神社をお参りして徳をつんでおいたんだ」

「すごい! ほんっとに凄いって! ねぇ! マーリンも出してよ!」


「ぇ、ピックアップ来てないよね……?」


「徳積んでるなら、いけるでしょ!」


 正気じゃない。

 テンションが振り切れて、いつもの冷静な綾乃ではなくなっているな。

 ふつうに考えて、ピックアップガチャ排出率上昇が来ていない素引きなど、確率的に絶対にひけない。というかそもそもマーリンというキャラは普段は出ない。


 流石に無茶が過ぎるというものだ。


 だが、うん、どうだ、やれるのかい、幸運値EX。


「うーん、なるようになれ!」


 とりあえず引いてみた。


「ッ! 凄い! 本当にマーリンが来たよ!」

「ぇ、いけた? 確率の壁、超越した?」


 俺の幸運マジぱないな。

 神、俺のこと好きすぎだろう。


「えへへ、お父さんがいればもうこの運営もおしまいだね! 悪い儲けかたするからいけないんだよ!」


 何かが振り切れたのか、綾乃はハイテンションのまま階段を駆け上がっていってしまった。


 いったい何しにリビングに来たのか気になる。が、それよりも、俺はたったいま素晴らしきアイディアを得たぞ。


「なるほど。ガチャ、か……」


 自身のスマホを見おろし、俺は偉大なる成功への道筋が今ひとつにつながったのを確信した。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 翌日、追加資金を手に入れるため、吉祥寺の消費者金融を襲った帰り。


「た、助けて……」


 道端で倒れる少女を発見。

 現代日本における、信じられない光景に一瞬たじろぐも、すぐさま駆けより、担ぎおこす。


「大丈夫ですか……ッ! いったい何が!」

「あ、お腹がすいて、動けない……」

「……ぁ、」


 頭の悪過ぎる理由に、心配した自分がアホらしくなる。少女を捨てて、そうそうにどこかへ消え去りたいが、そうは問屋がおろさない。


 足の裾をひっぱり、逃がさないと華奢な手。


「わたし、知ってる……! あなた、異世界から来たんでしょ……!」

「っ、何故それを?」

「………ぱたり」


 息も絶え絶えに、掴みかかってくる少女はそれだけ告げると、気を失ってしまった。


 面倒なタイミングで気を失いやがって。

 こいつ寝たフリじゃあるまいな。


 俺は嫌々、少女をかついでマイホームへの帰路につくのだった。

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