水に命の欠片を溶かすように。

 弟の嫁と主人公は、登山にやってきた。獣道で、日は傾きかけている。戻るべきか、主人公は悩んだ。
 主人公は弟がこの嫁を連れて来た時、羨ましいと同時に、家族内での自分の居場所を奪われてような気分でいた。しかし、それも過去の事だ。ただ、この美しくも気立ての良い嫁に、下心がないとは言い切れなかった。
 登山は元々兄弟の趣味だった。まだ弟が嫁を貰う前に、よく兄弟で山に登った。そんな中、兄弟は思いもよらず、凍ったカルデラ湖のような場所に行きつく。そこで、人間の脳が地球に似ていることなどを話したのだった。その珍しい凍てついた湖を目指して、今は弟の嫁と山を登る。
 弟の嫁は流産を経験していた。明るい内は気丈に振舞っていたが、夜には弟に泣きながら謝り続けていた。そんな彼女が、登山を義兄に申し出た。
 二人つなぐのは、持ち合わせていたザイル。
 自殺を疑われた二人の目の前に現れた景色。

 何故、二人は登山をしてまで、あの湖を目指すのか?
 二人の本当の目的を知る時、切なさがこみ上げる。

 是非、御一読下さい。

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