弟の嫁と主人公は、登山にやってきた。獣道で、日は傾きかけている。戻るべきか、主人公は悩んだ。
主人公は弟がこの嫁を連れて来た時、羨ましいと同時に、家族内での自分の居場所を奪われてような気分でいた。しかし、それも過去の事だ。ただ、この美しくも気立ての良い嫁に、下心がないとは言い切れなかった。
登山は元々兄弟の趣味だった。まだ弟が嫁を貰う前に、よく兄弟で山に登った。そんな中、兄弟は思いもよらず、凍ったカルデラ湖のような場所に行きつく。そこで、人間の脳が地球に似ていることなどを話したのだった。その珍しい凍てついた湖を目指して、今は弟の嫁と山を登る。
弟の嫁は流産を経験していた。明るい内は気丈に振舞っていたが、夜には弟に泣きながら謝り続けていた。そんな彼女が、登山を義兄に申し出た。
二人つなぐのは、持ち合わせていたザイル。
自殺を疑われた二人の目の前に現れた景色。
何故、二人は登山をしてまで、あの湖を目指すのか?
二人の本当の目的を知る時、切なさがこみ上げる。
是非、御一読下さい。
流れる水には地球の記憶が溶け込んでいる……その言葉が物語の主人公達を動かしたのでしょう。
義兄と義妹……血の繋がらぬ家族である二人は、それを繋いでいた存在を失い深く傷付いていた。その二人が胸の内に抱えたどうしようもないものに区切りを付ける為、山奥にある湖を目指すのが物語の本筋です。
しかし……その過程で少しづつ思い返される幸せだった過去が物語に深みを持たせ、そして心の深い部分に語り掛けてくる。大人の物語であるが、同時に誰もが共感できる演出であることは間違いないでしょう。
辛い過去と向き合いつつ湖を目指す『夫の兄』と『弟の妻』という関係は、やがて大切な者を失った家族として強くなっていく流れ……まさにヒューマンドラマの名作と言えます。
心に沁みる物語を読みたい方はお薦めです。