第2話 あなたにだけは会いたくなかった

 平日のショッピングモールは、それなりに人がたくさんいた。

 子供連れの家族とか、大学生くらいのカップルとか、幸せそうな顔ですれ違う多くの人となるべく目を合わせないようにしながら、私はゆっくりと歩いていた。

 買い物客が大半をしめているショッピングモールでは、ゆっくり歩いている人はかなり少ない。みんながニコニコとしながら、急いで歩いている。

 否、急いでいる、というのは語弊があるのかもしれない。二年前に訪れた東京では、街にいる人みんながこんな風に歩いていたから。みんなと私では、感じている時間の流れがきっと違う。同じ一秒の中で息をしているのに、私からは周りの人が早く見えて、周りからは私がのんびりしているように見えていることだろう。

 随分と不思議な話だ。

 平日のショッピングモールはそれでも土日に比べると人が少なくて、目当ての本屋はそれなりに静かだった。私はそのことに少し安堵して、無意識に力を込めていた拳の力を抜いた。

 少し前、本屋に有名なチェーン店のカフェが併設されてしまってから、土日のここには本を売る場所には似つかわしくないざわざわとした空気に満ちていた。来る前はその事が気がかりだったけれど、イヤホンをしていれば気にならないくらいの賑やかさで、私は安堵のため息を溢す。

 立ち止まっていた足をゆっくりと動かして、まずライト文芸の棚に向かう。なにを買うでもなく、ただ棚にある本を眺める。表紙、題名、作者の名前。それらがすべて私の心の柔らかいところと好奇心を刺激する。吸い込んだ息の中に、わずかな紙の香りを感じて、頬がゆるんだ。

「お前、こんなとこでなにしてんの?」

 突然聞こえてきた声に私は肩を震わせた。それが突然聞こえてきたからではなく、あまりに聴き慣れた───聴きたくない声だったからだ。逃げ出したいような気持ちに駆られたけれど、そんなことをしても追いかけられているのは目に見えているからため息を吐いてゆっくりと振り返った。


 それは、最悪な形での最愛の人との再会だった。

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