第6話 マリーゴールド
なんの計算もなく、空気も読まず、好きなように生きているだけで愛されるあなたが、羨ましい。否、この感情は羨ましいなんて仄暗い柔らかなものではないのかもしれない。心臓の奥が鋭く強く痛んで、叫び出したいようなどうしようもない吐き気に見舞われるこの感情は、絵の具をたくさん混ぜたような汚い黒でもっとずっと重たい。
私は、きっと───認めたくなんてないけれど───心の底からあなたが妬ましい。
あなたがそうやって生きられるようになるまで、どのくらいの苦労をしたのか、どんな風に傷ついたのか、私は知らない。そんなことは私にとっては些細なことだし、心底どうでもいい。けれど、もしもあなたが苦労も傷も、何一つ経験しないまま、生まれた時からそんな風に生きられたというのなら、そんな優しい世界があるってことを、私に突きつけないで。私がこれ以上あなたを妬まずにいられるように。
どんなに表面を取り繕っても、メイクを重ねても、愛想笑いが上達しても、私の根本にある利己的な部分は変わっていない。変われていない。押しつぶされそうなほどに重くて暗い夜空のような劣等感が、背中に伸し掛る。このまま床に沈んでしまうんじゃないかと、そんなことを考えながらも私の顔は愛想のいい笑顔を浮かべている。あなたの笑顔に比べたら、霞んでしまう輝きも美しさもない愛想笑いを。
ああ、お願いだから。
お願いだから、私に笑いかけないで。
お願いだから、私の隣に立たないで。
私はいつだって手が付けられないほどに膨れ上がってしまった劣等感と承認欲求に、首を絞められている。
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