第8話 ゆめ

  淡い夢を見ていた。


 その夢の中で私はお姫様で、あなたは王子様だ。時には毒林檎で死んだ私を救いに。時にはガラスの靴を持って私を救いに。時には魔女の呪いで眠りについた私を起こしに。


 夢の中のあなたはいつだってドラマチックに、ロマンチックに私の前に現れる。そして愛の言葉を述べるのだ。歯が浮くような台詞を躊躇いもなく、私に投げかける。その言葉に応えようとするところで、いつも目覚ましが私のことを現実に引き戻す。


 絶望が私をベットに沈めるように重くのしかかる。まだ暗い部屋で目を覚ました私はただの冴えない十五歳で、受験生で、お姫様には程遠い。可愛くないセーラー服に袖を通した私は、あなたへの気持ちを押し固める。


 夢の中でのお姫様は、教室の片隅で縮こまる冴えない少女に。


 夢の中での王子様は、教室の真ん中でよく笑う明るい少年に。


 それぞれ現実の世界へと立ち戻る。


 あぁ今日も───あなたが好きでした。

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