DAY-02-07

 帰路の間、色々と考えてみた。電車に揺らされている間というのは、物思いに耽るのに最適な環境なのかもしれない。時間帯のこともあって学生や会社帰りの人がちらほらいるが、車両の端に座っていれば、ある程度の騒ぎは無視できる。

 例えば涼夏の父親についてだ。涼夏の母が夕季であるなら、男の方の親もいなければならない。だが、今日の会話では一切触れていなかった。事故ですでに他界しているのか、離婚しているのかは不明だが、その点は確認しなければならないと思った。

 それを知ったとして、夕季が他人である光貴に後見人を指定したのかも不明瞭だった。

 これに関しては上林も疑問視していた。夕季の叔父である平井氏や、父親側の親族に頼むこともできたはず。そうすれば余計なことをせずに終わる可能性があると思ったが、そうせざるを得ない状況だったのだろうと、そう想像するしか他がない。

 突然の出来事であるのは、平井家にとっても、涼夏にとっても、自分としてもそうだ。それでも、自分の決断一つに連鎖にして問題は解決に向かうには違いない。そう考えると、これから自分が出す答えが、さらに重いものだと実感した。

「……いっ」

 ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。起動すると、今書いている記事の担当編集からの通知だった。その下には、着信の履歴も残っている。

〈進歩どうですか〉

 簡素な一文に苦笑い。同じ雑誌には幾度と書いていて、その度に担当になっているその相手とは、会社は違っていても同僚みたいな間柄になっている。

〈連絡遅れてすみません。所要で外にいました。こんしゅ……〉

 その続きをどうしようかと指を止める。今日の一件も含めて、今の仕事をスムーズに終わらせられるか不安になった。今まで数十件と受けて来て九割方、締め切りはしっかりと守って作ってきた。資料も構成も纏め終わり、一稿目を出す用意は出来ている。

〈期日までには出せますので、もう少し待って下さい〉

 打ちかけの文字を消して、逃げの一手に走った。余裕があるのは事実だ。

 送信して一分経たずに返信が届く。

〈わかった〉

 今度は鼻で笑ってしまった。わかりました、ではなく、わかった、だ。こんな対応でも納得してしまう仲になったものだと可笑しくなる。

 ――こんな関係を、彼女は、自分以外と持てていたのだろうか。

 ふと夕季の姿を浮かべると、心臓が熱くなった。初めて会った時、誰の目にも触れないところで交わした会話、打ち明けられた事実と覚悟。彼女と共に過ごしていた二年間が、引き出しの奥に詰め込んでいた記憶が、ゆっくりと開かれてゆく。

 あの時の彼女に、自分は夕季の味方であることを、ちゃんと伝えられていたのだろうか。

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