DAY-02-05

 上林はやや強めに言った。その提案に、涼夏は何も答えず、一礼して席を離れた。道正は対照的で何か物申したそうだったが、諦めたのか苦い表情で立ち上がった。

 二人の気配が薄れたのを確かめて、上林は光貴に向き直った。

「豊本様。もう一度お聞きしますが、夕季様が後見人に貴方を指定したことに関して、全く知らなかったのですか? 第三者から噂を聞いた、なども?」

「……はい」

「では、……夕季様とその親御様、ないしは親族関係等で知っていることはありますか?」

 放たれた矢先が、光貴の喉元を霞めた。

「と、……言いますと」

「先程、豊本様は夕季様と同級生と仰っていました。交友関係を少なくとも持っていたならば、相手の素性や状況を多少話しているのではと思ったのですが。例え同級生でも他人関係であることには変わらない相手に、自分の子を託すという選択肢は、普通に考えても出てくるものではないでしょう」

 上林の言葉には警戒色が付いていた。

「豊本様。夕季様との関係について、正直に話していただけますか?」

「……友達、ですよ。その、お互いに、たった一人の」

 自分でも声が沈んでいるのが分かった。考えるに連れて、今まで思い出さないでいた彼女の白黒な面影が色付いてくる。それが今、切羽詰まったかの状況で、何とも言い難い掻き混ざった思考を止めることはできなかった。

「その先は、話しにくい内容でしょうか」

「……」

「分かりました。今日はこれくらいで終わらせておきましょう」

 渡りに船……だろうか、上林は出していたノート類を軽く揃える。

 光貴は安堵の心地はしなかった。上林は諦め気味に言ったに思えるが、そうすんなりと進むことはないと、夕季との関係性を訊いて来た時に感じていた。

「ですが豊本様。これだけはお伝えしておきます。未成年後見人の選任の一つとして、未成年者本人や親族が家庭裁判所に申し立てをして、裁判所の判断を基に決められます。……しかし、遺書において指定されているなら変わります」

 上林は両手の手の平を光貴の前に出した。

「十日です。夕季様が亡くなられて数日ですが、今回の条件では遺言者が亡くなってから十日以内に是非を決めて頂かなければなりません。酷な言葉になりますが、思案する時間は長くないということを念頭にお願いします」

 こんな時ばかりに、この話を聞いて答えられずにいる自分が、残された時間を無駄にしている自分が、――情けなく、哀れで、怠惰な人間だと思わずにはいられなかった。

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