DAY-03-02

 上林とは式の後、今後の予定について話した。一つは涼夏が今現在身を置いている平井家と『難しい話』をする日について。もう一つは、涼夏本人に今後の希望を訊くということ。それぞれを議論しなければ進められないと上林に伝えた。

 優柔不断――という考えの下ではない。夕季の遺言通りに従ったとして、それが全員納得するものと断定できなかったからだ。

 何せ、ぽっと出てきた男に身内の子を任せることになるのだ。遺言を尊重しなければならないのは理解しているが、「わかりました」と早々決めて、後々に文句が出てくる状況にはなりたくない。それは彼らだけでなく、我が身を委ねることになる涼夏にとっても同じことだ。

 そして、上林が述べたタイムリミットは、既に一週間を切っている。

 急かし気味になっているが、先延ばしして有耶無耶になるのは避けたかった。

「……」

「……」

 外の喧騒が静まった、告別式を終えた夜。

 光貴は平井家を訪れていた。道正とその妻を対面にして、自分の隣に上林が座っている。涼夏には事情を話し、部屋に戻ってもらっている。

 このタイミングを逃す訳にはいかない。この問題を先延ばしにしたくないのは相手も同じはず。だからこそ光貴は、急がば回れの精神は捨てて、荒れ地を突っ切る覚悟を持った。

「では……豊本様」

 上林の促しに、光貴は噛んでいる唇を開いた。

「率直に訊きます。……平井さん。私が夕季さんの遺言通り、涼夏さんの後見人になったとします。それには、平井さんと、他の御家族の方も納得されるのでしょうか」

 道正と妻は動かない。

「自分なりの……客観的意見ですが、夕季さんが自分を指名したことは普通には考えにくいこととだと思います。本来なら自分に近い人、それこそ……親兄弟の家庭などに身を置くようお願いするものだと、思います」

 上林が抱いていたものと同じだ。自分の子を、――平井達からすれば単なる同級生に託す判断が、夕季が自分の血縁の人達より光貴を選んだ事実は、常識的に思えば理解できないだろう。

「自分が知りたいのは、どうして夕季さんが僕を選んだのかです。彼女と同級生という仲ではありましたが、それだけでは不相応だと思います。彼女には、……推測ですけど、そうしなければならない状況があったと考えました」

 言葉にして、自分が意地の悪いことを言っているなと感じた。でも、そうでもしないと本心を引きずり出せないと思ったから言えたことだ。臆することはない。

 光貴が初めて訪れた時、光貴が後見人に選ばれている内容を伝えられた時に何も追求してこなかったことも、今思えば不思議だった。どうして夕季は君を選んだ、とか、一つ二つ問い質すくらいはできたはず。

 今は夕季が遺した言葉を叶えるか否かを選ばなくてはならない。気持ちで劣ってはダメだ。何を無責任なことをとか、喧嘩腰になってしまったら、その時は真っ向から対立してやると腹を括っている。

 だが静寂の後、返ってきたのは言葉ではなく、

「……この通りだ」

 道正が座布団から降り、両手を突いて頭を床に着けるという行動だった。

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