DAY-03-03

「この度は、ご迷惑をお掛けしました」

 会って早々、謝られた。

「……涼夏さんが謝ることはなりませんよ」

「あと、できるだけ敬語はやめて下さい。その……そうやって話すのは慣れていなくて」

「わかり……わかった、で、いいのかな」

「できるだけお願いします」

 平井家との話し合いをした翌日。次に決めていた涼夏との話し合いの場になったのは、平井家と最寄り駅の中間辺りにあるファミレスだった。

 道正との論議を終え、涼夏の部屋へ終えたことを伝えた時、今日のこの時間と場所を書いた紙を、扉の隙間から差し出してきたのだ。更に、道正にはこの内容を伝えないでほしいということに加え、光貴一人と話がしたいという条件を付けていた。どういう意味かと思ったが、上林は「彼女がそう希望しているなら」と条件を飲んで、今日は同席していない。

「だけど、……こんなに早くでよかったの? 少しくらい間を開けても」

「叔父さんは、できるだけ早く事を済ませたいようでしたから」

 まるで他人事のように吐き捨てた。強がっているという感じではなく、素っ気なくて情のない声色だった。

「改めて謝らせてください。私の問題にかかわらせてしまった事、知らずの家庭の事情に引き込んでしまった事、謝ります。ごめんなさい」

「……だから謝ることは」

「それでも、迷惑になったことに変わりはありません」

 頑なに姿勢を崩そうとはしなかった。彼女が負う事など一つもないと思うのだが、それだけ責任感が強い子なのだろうと感じた。

「……なんですか」

「いや、何でもない。ぼーっとした、だけ」

 半眼の視線に、光貴は他のテーブルに目を逸らす。

 彼女は制服姿で、放課後の時間を使ってこの場を設けてくれたのだ。最初にあった時は室内だったからか、屋外で制服姿を見ると、何も変わっていないのだが、学生なんだなぁと不思議に思ってしまう。

「にしても、何でファミレス?」

 光貴の問いに、涼夏は小さくため息をひとつ。

「通学で使っている駅から叔父の家までの間だと、このファミレスが一番適していると思ったからです。居酒屋はありますが入った事はありませんし、コンビニのイートインだと長居するのはよくないし、なので夕方を過ぎても比較的穏やかなこの場所を選びました」

「……なるほど」

 彼女の推測通り、夕方の店内は静かだった。本通りから少し外れた場所なのだが、他の客というと老夫婦が二組とスーツの男性一人だけ。店員も入り口から離れた角の席を使わせてほしいというお願いに快く案内してくれた。

「それに、叔父の家だと落ち着いて話が出来ません。リビングだと会話が筒抜けですし、別の部屋で話そうとも、こっそり聞きに来るかもしれませんから」

「そんなことはないと思うよ?」

「そうしてくる可能性がある関係であるのは、昨日の時に分かりませんでしたか?」

 反論できず、「だよなぁ」と漏らす。

 彼女の言葉に納得してしまうだけの出来事を、目の当たりにしていたのだから。

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