DAY-02-03
「えっと、……弁護士、さん?」
「はい、弁護士をしております」
状況を呑み込めていない光貴に、上林は毅然と一礼する。
「……ああ。気になりますよね」
光貴の視線が上林の左胸に一瞬移ったことも見逃さなかった。
「事務所での仕事中は付けているのですが、出歩く時は外しています。例えば今日みたいに、ご家庭を訪問させて頂く時などは、依頼人からすると、周囲に認知されてしまうのは快くない事もあるので。……気になるようでしたら付けましょうか?」
「……いえ、そのままでお願いします」
そうしてしまうと、更に張り詰めた中で話し合いをしなければならなくなると感じた。バッヂを外しているのが上林の配慮なら、乗っかっておいた方がいい。
となると、疑問が更に一つ。
「じゃあ、その……お隣の……」
上林の隣に座る少女だった。光貴の『二人は親子の関係』という予想が外れ、彼女の素性が分からなくなっていた。
「はい。この度亡くなられました牧野夕季様の御息女、……牧野涼夏様です」
「……むすめ」
紹介された彼女――牧野涼夏は夕季の、子。
視線を少し涼夏に移した。彼女は上林との会話を気にすることなく、光貴が客間に入ってからずっと俯き続けている。視線を一度も上げず、前に置かれているお茶の水面をじっと見続けていた。性格としては物静か、……もう少し加えるなら、引っ込み思案、だろうか。
「そう、なんですか」
「突然のことであるのは承知していますが、事実です」
モヤモヤし続けていた幾つもの疑問の雲が、上林の言葉で次々と掻き消されていった。もしここで出生の証拠を見せてくれなどと言えば、――上林の言動から考えるとすぐに出せるようにしているのだろうが、自分がさらに混乱してしまうだけだと思い、飲み込んだ。
「えっと。上林さんは弁護士で、牧野涼夏さんは、牧野夕季さんの娘。…………上林さんの依頼主は、彼女で?」
「いえ。ご依頼主様は牧野夕季様です。……簡略して申しますと、本日は夕季様が遺されました遺書に関してお伝えすることがあります」
上林はビジネスバッグから用紙を一つ、光貴の前に出した。中段辺りには、光貴の氏名と今住んでいる借家の住所、生年月日まで書かれている。
これはなんだと視線を文頭に移した時、上林は告げた。
「牧野夕季様は、牧野涼夏様の未成年後見人の指定に、豊本光貴様を指名されています」
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