DAY-02-02

「どうぞ、お入りください」

「しっ、失礼します」

 変に畏まると更に失態を生みかねないと、一度深く深呼吸してから靴を脱ぐ。道正の後を追い、「こちらへ」と客間に案内された。

 そこには更に知らない人がいた。

 一人は眼鏡にスーツ、傍らにはビジネスバッグと、エリートのステレオタイプ的な男性。モデル体型というのだろうか、正座姿は凛々しいものだった。髪形も七三分けではなく、ワックスで作っただろう流れがある。寝癖を直すだけの自分とは格が違う。

 その隣には制服姿の女子がいる。リボンタイにブレザーにスカートと、学生のイメージそのままの姿。どれも着崩している部分はなく、真面目というか、規則はきちんと守るタイプに見える。肩辺りまでの髪は整えられつつ、少しだけ毛先が跳ねている辺り、若さを感じる部分があった。眼鏡の男性とは違い光貴には反応せず、静かに視線を落とし続けている。

 一見しても、親子関係ではなさそうな雰囲気だ。それぞれが持っている空気というか、波長が違う。両者の間には、はっきりとした身分の違いという壁があった。

「わざわざ遠い所へ、ご足労をおかけしました」

 客間の奥にあるカーテンを分けて、盆を持った叔母が出てきた。お好きなところへ、と光貴を空いている座椅子に招く。状況からして、道正の妻だろうか。鞄を傍らにして座った光貴の前に茶碗と揚げ菓子の包みを置くと、一礼してカーテンの奥へと去った。

 現状を確認すると、光貴はスーツの男性と制服女子、二人と対面する位置にいる。長机の長辺同士に座ると、どうも職業柄か会議室や応接室の情景が浮かんでならない。そんな機会といえば、記事のコンセプトや編集の会議か、編集担当との打ち合わせくらいだ。

 男性と女子の関係について想像してみるが、しっくりくるならば、牧野夕季の夫と娘だろう。となると、その二人が見知らぬ自分に何か告げたいことがあるのかと考えると、その先は想像できない。身内や親戚でもない光貴は、考える程に困惑していった。

 道正が客間に戻ると、カーテン側の一辺に座り、深く吐いた。

「さて、……それでは本題を進めてもよろしいでしょうか」

 そう切り出したのはスーツの男だった。その口調は如何にも他人行儀だった。全員の意思を確認せず、懐からケースを取り出すと、中身の一つを光貴の前に出した。

「……弁護士?」

 上段には事務所の名前とロゴマーク、中央には本名、下段には連絡先と、他に装飾一つとない、テンプレートな名刺だった。

「弁護士をしております、上林と申します。この度は牧野夕季様が亡くなられた事で、御息女様であるスズカ様と、現在の扶養家庭である平井様にご同席頂きました次第です」

 ……想像を遥かに超えた事態を、すぐに理解できなかった。

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