小さな山の、壮大な歴史。失いゆく記憶と失われない感情の物語

私も途中からこの二人(?)にある感情は恋に似ていると思っていましたが、私のとんちんかんな解釈で変なことを言っていたらどうしようと考え、胸に秘めようとしていました。最後にもう一度小説情報ページを見たら、タグに「殺し愛」とあって、作者様と心が通じ合った気持ちです。愛なのか。やはりそうか。わかっていたよ。

山の中に住まう、大きな大きな蛇の形をした異形の存在である「ヌシ」と、何度生まれ変わっても「ヌシ」を殺しに来る「かのヒト」との戦いの歴史です。「かのヒト」が最初の「ヌシの作った掟から山に住む人々を救う」という目的を忘れてただ「ヌシ」を殺すために知恵を凝らすようになること、「ヌシ」はいつしかあの手この手を使って「かのヒト」が殺しに来るのを待つようになったこと、この辺二人(?)の間にある執着心は時空も社会も何もかも超越して受け継がれていきます。

世相がどんどん現代に近づいてきて、はたしてどんな形でエンドマークがつくのかと思いきや――それはこのレビューを読んでくださった皆様のお楽しみとしてここには書かずにおきますが、私は「次世代につなぐこと」のあたたかさのようなものを感じましたし、「ヌシ」もこれでちょっと安心したのではないかな、と解釈しました。