ある山に、山に掟をしくヌシがいた。ヌシは巨大な体躯を持ち、神通力とも呼べる力で、掟を破る山人を罰していた。ヌシは人や動物の数を平らに守り、破る者には、いかづちを、岩を、毒の雨を罰として与えた。そこに人間がやってくる。
『ヌシよ、お前を殺しに来た』
作中に何度も登場する、意味深く印象的で、象徴的な言葉だ。ヌシの姿は、誰しもが見ることはできない。しかし、流転し、ヌシを殺しに来る人間には見えた。その巨大な蛇の姿が――。
山にいて、そこを守るヌシ。しかし人の世は移り行く。そのたびに、ヌシを殺しに来る者の姿は変わった。
そして、最後に人間が転生した姿とは。
ヌシが人間に抱いていたものとは。
ラストは、是非皆さまに見てほしい。
和風的な世界観で織り成される、不死身のヌシと人間の物語。
是非、是非、御一読下さい!
私も途中からこの二人(?)にある感情は恋に似ていると思っていましたが、私のとんちんかんな解釈で変なことを言っていたらどうしようと考え、胸に秘めようとしていました。最後にもう一度小説情報ページを見たら、タグに「殺し愛」とあって、作者様と心が通じ合った気持ちです。愛なのか。やはりそうか。わかっていたよ。
山の中に住まう、大きな大きな蛇の形をした異形の存在である「ヌシ」と、何度生まれ変わっても「ヌシ」を殺しに来る「かのヒト」との戦いの歴史です。「かのヒト」が最初の「ヌシの作った掟から山に住む人々を救う」という目的を忘れてただ「ヌシ」を殺すために知恵を凝らすようになること、「ヌシ」はいつしかあの手この手を使って「かのヒト」が殺しに来るのを待つようになったこと、この辺二人(?)の間にある執着心は時空も社会も何もかも超越して受け継がれていきます。
世相がどんどん現代に近づいてきて、はたしてどんな形でエンドマークがつくのかと思いきや――それはこのレビューを読んでくださった皆様のお楽しみとしてここには書かずにおきますが、私は「次世代につなぐこと」のあたたかさのようなものを感じましたし、「ヌシ」もこれでちょっと安心したのではないかな、と解釈しました。