雛、白百合、ピアノの音色、語られる言葉、透明な想い‥‥‥この物語には、脆くて、儚くて、美しい物が沢山詰まっています。奇跡のような出逢いがある事は、生きづらい世の中での神様の粋な計らいなのでしょうか?ササオカさんとミヨシくんが出逢えた事、私がこの二人と出逢え事、よかったなって思います。あまりにも早い幕切れに、悲しい思いはあるけれど、とても幸せな物を感じます。純粋で大切にしたい思いを心の中にそっと植え込まれるような作品です。
OLのササオカさんが出会ったのは、ピアノ教室の儚げな少年。彼は自分の番を待つ間、ずっと折り紙に精を出しています。最初はほんの一瞬の言葉を交わすだけ。それがいつからか、長い会話をするようになるのです。その中で明かされる、少年・ミヨシくんの秘密。透明で儚い、夢のような時間が流れていきます。時間と共に流れるのは、ピアノの伴奏です。わたしは音楽に詳しくありませんが、きっと優しく物語を包み込んでいるのだと感じます。触れれば壊れてしまいそうで、反対に強固な強さも感じる二人の出逢いを是非。
読み終えたあとに思うことは、「ああ、終わってしまった……」です。それはまさに、音楽を聴き終えたときの感情に酷似します。ピアノの最後の一音が鳴ったあとの独特の余韻、願わくば永遠に、この感覚につかっていたい。「お願いだ、時間よ、止まってくれ……」、そんな衝動です。作者様の世界に触れ思うことは、はかなさやもろさと、強さやたくましさは表裏一体ではないかということです。音楽が鳴り響く中で、そんなことを考えてしまいました。この素敵なプレリュードを、ぜひ紹介される曲と合わせてお召しください。
穏やかな文体で綴られる、優しく、それでいて壊れることを人の手では止められないような、泡沫のごとき物語という印象を抱きました。幻想的でありながら幻想の中だけに留まることはなく、何処かリアリティーのある繊細な描写は読者である私たちの中へ清水のように染み渡っていきます。透明感がありながらも、たしかに其処にいるという“生”の煌めきを感じました。切なく、それでも心を包み込むような読後感を覚えられる作品です。
人生におけるかけがえのない出会いにより、深まっていく想いがあること、病による悲しく切ない運命でさえも人生に彩りを与え美しい結晶のような心の輝きを映し出すことに気づかせてくれる秀作です。
忙しい日常を送っていると、繊細さを感じる感性が落ちてしまうのですが、ひいなさんのこの小説は、細やかな感受性を取り戻してくれます。儚く短い時間の中で紡ぎだされた愛。消して消えることなく、永遠の中に輝いていくのだと思います。相手に真っ直ぐに向かっていく、移り変わることのない愛。強いよね。