第百五十二回 軌跡の中に奇跡を。そして語り継がれるの。


 ――可奈は語る。

 令和元年七月六日、私がいつも愛読している、とある小説サイトの『書くと読む』

 りかのじかん。――という作品を目の当たりにし、読み進める。あまりにもこの日の出来事と酷似していたので、思わず「クスッ」と……

 作者は……やっぱりね、よく知っている子。りか――というペンネーム。ネーミングセンスは、同じサイトのMさんと同等かな? 学校で喧嘩したけど、そんなことはもうどうでも良くてコメントしてあげた。『りか頑張ろうね』って……



『雨は涙の象徴だけど、

 その後には虹架かり楽しさ溢れる日々』



 星野梨花――それが彼女の名前。自分のことを『僕』というのが特徴だ。

 彼女の好きな作品は『五十五色のエッセイ』で、その作者さんに憧れて、エッセイを書き始めたそうだ。その作者さんはMさん。私たちの担任、平田瑞希先生だ。

 梨花は、瑞希先生に恋心まで抱く百合。……そんなの認めないとの思いで、私は梨花を演劇部に引き込む。私の方が梨花を愛しているのだから……と、お友達以上の想い。

 そんな最中、梨花が補導された。

 原因は何か? 何もわからないまま、梨花は事情徴収を受ける。そんな警察に対し、瑞希先生は怒る。梨花にとって号泣するほどの怖い出来事。……その出来事から、梨花と見分けるのが困難なほどよく似ている千佳という子が登場。千佳の名字も『星野』……遠い親戚というけど、もっと深い関係が? そんな伏線も込みで、お話は進展する。

 八月二十四日、演劇部は『ふるさと祭りの大イベント』を、十五名のメンバーで築き上げたミュージカル風の劇で迎える。四年ぶりの大盛況で飾った。

 そして九月から、千佳も正式に転校生として私たちの学園へ。長い不登校を乗り越えそうな時、浴室で手首を切り自殺未遂……

 何で? ――梨花が、一番そう思ったことだろう。

 それからは三人……三人のエピソードを共有しつつ、三人にとって一番よい進路を模索していく動きへと転じていった。



 止まる、ここで。――可奈かなの語ること。


「終わり、…なの?」

 と、僕は可奈に問う。……その言葉の裏側には何か? 何か大いなる伏線があるような気がしてならい……というか、または広大な世界に近いものを垣間見たような感覚。


 深読みにもならず、

 それよりももっと深いような……今の僕のキャパではラビリンスだ。



『そうね、あらすじなら』

 と、可奈は僕に答える。ここで僕はフ~ッと、深く息を吐いてから、


「そうだね、

 四百から八百までの文字数では、十万までのお話を語ることは難しいからね」


『……ねって、あなた知ってたの?』


「うん」


『何で? 知ってるって言わなかったの?』


「せっかく可奈が僕のために考えてくれてるのに、無駄になっちゃうじゃない。それに可奈なら、どんなあらすじにするのか知りたかったし、聞きたかったから」


『……呆れた。怒る気にもならないよ。

 でも、ありがとね。私のこと、そこまで思っててくれて』


「うん、大好きなお姉様だから」


『ほんと今日は、珍しくの付く素直でいい子ね。

 その可愛い妹は、また可愛い妹のために、私と同じことをしてあげるといいね』


「わかってる。僕の可愛い妹だから」


『あなただけじゃないよ、あの子はあなたと同じほど、私にとっても可愛い妹だからね』



 それは千佳ちかのこと。今は梅田うめだだけど、元は星野ほしの。僕と同じだ。


 そして可奈も藤岡ふじおかだけど、お母さんの旧姓も星野……本当に大いなる繋がりだ。


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りかのじかん。 大創 淳 @jun-0824

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