自覚的な〈物語〉の意志のような何か

〈つまり、君は読者でなおかつ作者。
 まだ書き終わっていない物語を、もう読み始めている。〉

 という表現を読んで興味を惹かれた方にはぜひ読んでもらいたい作品です。物語の本筋は、渋谷のファストフード店、上野こと語り手の〈私〉と高嶺が待ち合わせするシーンからはじまります。ふたりは別の高校に通う高校生で、高嶺は中学の時にスカウトされてから、タレントをしている。ふたりはその時、ゾンビのフェイク動画をきっかけに、ゾンビの話をし、馬鹿話で終わるはずだったそれが、〈まさかこんな冗談が現実になろうとは。〉

 というのが、物語本筋の導入になるのですが、あんまりこんな導入を説明しても意味がなくて、〈物語本筋〉と曖昧な言い方をしているように、本作は〈物語〉が〈物語〉であることに自覚的である〈物語〉になっていて、よく見掛けるパニックものの作品が、新しく鮮やかな光を放つような作品になっています。物語そのものに対して違和感を覚えたことのあるひとには、ぜひ読んで欲しい作品です。

 物語の内容について、これ以上はあまり語らないほうがいいでしょう。虚構から裂け出た虚構が放つ強烈な自意識が絡む、切なくも高潔さが感じられる、素敵な余韻がすごく好きです。

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