勇亡者さまのラストクエスト―成仏したいので、告白させてください―

おまけ：友たちからの手紙

【アレイア・レザーフォルトさま】

こんにちは、ココルノです。元気にしているかしら？　お腹のつわりがひどいと聞いたので、少し心配です。あれは本当、ひどいものよね。私も一人目を授かった時にはなぜか学院時代に気に入っていた“ムイ麦クリームあんぱんマスタード味”しか受け付けなくなってしまって、とても困りました。日持ちしないパンですから、セルジオは会社のお昼休みに毎日学院へ走ってくれたのよ。「パンの取り合いでは若造たちにはまだまだ負けないぞ」なんて言って！彼がどんな困難でも楽しめるようになったのはやっぱり、学院生時代にあなたから受けた良い影響なのだと思うわ。

お父様から受け継いだデイリング社は順調です。最近では、新人ママさんが使いやすいお掃除魔具というのを開発しました。どうか使ってみて、感想を教えてください（ただし、使った後はすぐに錠付きの頑丈な小箱にしまってください。よく逃げ出すので）。

落ち着いたら新しい家族をつれて、王都へも遊びにきてくださいね。

あなたの友より、最上の愛を込めて。――ココルノ・デイリング

【アレイアへ】

元気にしているか？セルジオだ。もうすぐ子供が生まれると聞いた。君はいつまで経っても学院生のような姿だから、信じられないというのが素直な気持ちだ。男である僕からできる助言は特にないが、君なら何の心配も要らないと保証するよ。元“バディ”としてね。

君と一緒にレザーフォルト先生と戦ったあの実習のことは、今でもよく思い出すよ。結局僕はデイリング家の婿養子に入ってしまい、今はただの会社員だ。仕事は嫌いではないし、ココルノ“社長”は見張っておかないとすぐに隠れて設計図ばかり引こうとするから油断できない。

でも時々、“彼”のように闇術を極める道を歩んでみたかったと思うこともあるんだ。学びに没頭できることが幸せだと言った君の言葉を、最近ようやく理解したよ。

元高等闇術クラスの皆も、幸運ながら全員が元気にやっていると聞いた。君が学院を去ったあとの、ウォレン先生の気合いの入れようといったら……。まあそのおかげで、僕たちは元気にそれぞれの職務を果たせているのだろうけど。

こちらは三人の子供たちに囲まれて、毎日賑やかすぎるくらいだ。手が足りない！とセルアがいつも怒っているから、どうか君も遊び相手になってやってほしい。

P.S 妹はセルア叔母さんと呼ばれるのが不服のようだから、気をつけてくれ。

君の同輩にして相棒より、友情を込めて。――セルジオ・デイリング

【アレイアさんへ】

やあ、元気かな？　ダリアンだ。家族にはそろそろひ孫のために引退したらと言われるのだが、相変わらず愛する学び舎の学院長席に収まっているよ。

とある“虹色の友”に、君のところにまもなく子供が生まれると予言されてね。彼の予言はほぼ的中するから、この手紙と祝いの品を贈らせていただくことにした。小さな家族との新生活に、少しでも役立ててくれると嬉しい。

しかしもうそんなに時が経つとは早いものだ（私が歳を召した証ではないだろうね？）。君とログレス君が学院に来てくれたことを、つい昨日のように感じるのだけど（いや、やっぱり歳を取ったのかもしれない）。

“黒蜘蛛”がどんな父になるのか、楽しみでならないよ。いつか子育てについての講義をお願いしてもいいだろうか？はは、冗談だ。私は寿命まで五体満足でいたいから、彼にはこの手紙を隠しておいてくれたまえ。

無限の時を生きる我が大妖精にも君へのひとことを頼んでみたのだが、「文字なんて覚えたら、気分が悪くなるだろうが。このどあほ！」と言って一蹴されてしまったよ。彼曰く、これで十分に祝福代わりになるとのことだ。

――インクの滲んだ、小さな小さな手形が押されている――

君の学び舎の門扉は、いつでも開いている。もしお子さんに学びへの渇望が見られる場合は、どうか我が王立ディナス武技学術院へご用命を。待っているよ。

君のもうひとりの師、そして食堂のお喋り仲間より。――ダリアン・モガフィット

【レザーフォルトへ】

形式上必要であるからこう書くのだが、元気にしているか。ウォレンだ。まさか私から手紙が届くとは思ってはいまい。私も学院長に言われて書いているだけだ。

正直、何を書けばいいのかわからん。子供が生まれると聞いたが本当か。いや返事は必要ない。書物の管理しかしてこなかった貴様に子育てがこなせるとは到底思えんから、せいぜい苦労しろ。

書庫で調べた結果、妊婦は腹を温めるのが肝要だとわかった。よって伸縮性にすぐれたユルーン糸製の腹巻と、振ると発熱する魔術を込めた手袋を同封しておく。この時期は精神が乱れる者も多いと聞いたので、心が安らぐホットスルーワの葉を使った紅茶も入れておいた（妊婦が飲んでいいものかはリーバニ先生に確認した。最近の彼女はやたらと私の資料室に居座っているので迷惑している）。

父親だろうと何だろうと、闇術師たる者備えをおこたるべからず。

それでは、貴様の無様な健闘を期待している。

いつか貴様に土を舐めさせる者より。――ウォレン・ベルタライト

＊＊＊＊

アレイアが主人公の番外編『大闇術師の弟子、学院に編入する。―魔物少女も青春したい―』はこちら：https://kakuyomu.jp/works/1177354054893454910

どなたさまもよい“クレマセス”を！