足の着かない虚空を彷徨うこころを辿る筆致

しっとりとした身を切るような独白の連なりに思わず引きこまれてしまいました。
たった一人の肉親でもあり愛を覚えた人を失くし、彷徨うように海へ出かける。
そんな倒錯的な感情の揺らぎが筆致に染みていて、読んでいるこちらも何だか波ひとつない泉のほとりにいるような気分に浸ることが出来ました。

最終的に抱いていた幻想は無情にも砕かれて、忌まわしい現実から遊離することは出来ないのだと悟ってしまう中で、
決して望んだものではない形で希望の種らしきものが舞い込む結末は、
むしろ主人公の所在を生でも死でもない曖昧な座標にピン留めしてしまうという意味でのやるかたなさがあり、胸に迫るものがありました。

主人公に生まれつき片脚がないこと、早くに両親を亡くしたこと、海へ向かう途中に出会う2人の人……短いながらもいくつものギミックが散りばめられていて、
生きるも死ぬも、そう容易く行き場なんか見出せるわけがないと訴える心情をとても巧みに演出されていらっしゃいました。

わたしの受け取った印象が正しい解釈なのか自信がないところもありますが、
ともあれ他人に気安く理解されたくない何かを抱く人にとっては琴線に触れる文章作品ではないかなと思います。ありがとうございました。