概要
何もかもが、月のように無機的で、時雨のように冷たかった。
最愛の兄・冬夜を失った春香はこの世のすべてに心を閉ざしていた。いまだ手の中に残るぬくもりの残滓を忘れることができず、いつか二人で訪れた海をもう一度見るため、彼女は寂れた停留所でバスに乗る。
その日に起こった出来事は、彼女の心にもその未来にも何一つ影響を与えることはない。
その日に起こった出来事は、彼女の心にもその未来にも何一つ影響を与えることはない。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!足の着かない虚空を彷徨うこころを辿る筆致
しっとりとした身を切るような独白の連なりに思わず引きこまれてしまいました。
たった一人の肉親でもあり愛を覚えた人を失くし、彷徨うように海へ出かける。
そんな倒錯的な感情の揺らぎが筆致に染みていて、読んでいるこちらも何だか波ひとつない泉のほとりにいるような気分に浸ることが出来ました。
最終的に抱いていた幻想は無情にも砕かれて、忌まわしい現実から遊離することは出来ないのだと悟ってしまう中で、
決して望んだものではない形で希望の種らしきものが舞い込む結末は、
むしろ主人公の所在を生でも死でもない曖昧な座標にピン留めしてしまうという意味でのやるかたなさがあり、胸に迫るものがありました。
主人公に…続きを読む