110
若き日に俺は、美少年に恋をした。
だが、美少年だと信じて疑わなかったその人は、実は美しい少女だった。
――なあ、アリッサム……。
君とアダムスミス公爵邸の別宅で暮らした数ヶ月は、俺にとって世界一幸福な時間だった。
バレット王国で再会したあの日……。
君は俺の腕の中で、流れ星のように消えた。
君は……俺に逢いにきてくれたんだよね。
あれは夢か幻か……。
部屋に残された卒業証書だけが、その真実を知っている。
君が俺から卒業しても、俺は君から卒業できず、今でも君だけを愛している。
◇
フェンシングの剣先が激しい音を鳴らし、技と動作の応酬は続く、アリー王子が俺に鋭い眼差しを向けた。
「ボクが勝利したら、アスターはボクのものだからね」
「アリー王子が、この俺に勝てるはずなどありません。我が子ほど歳が離れておるのに、おふざけを。俺は誰のものにもなりませんよ」
「はたして、そうかな? ボクはまだ卒業しないって決めたんだ」
ニヤリと口角を引き上げたアリー王子。
「卒業しない?」
一体、どういう意味だ?
教育係のことか?
大きな瞳……。
長い睫毛……。
ふっくらとした唇……。
小生意気だが、悩ましい眼差し。
その笑みが、愛しき人と重なった。
――『あ い し て る ……』
鼓膜に甦る微かな声……。
ふとした気の緩みに、アリー王子が剣先を突いた。俺の鼻先に向けられた剣先がキラリと光った。
「参りました」
「アスター、勝利のご褒美は挨拶程度のキスでいいよ」
どこかで聞いたセリフだ……な。
ま、ま、まさか……、アリー王子は実は王女ってことはないよな?
もしかして……アリー王子の前世は……。
「ジンジャー王配殿下、アリー王子は……まさか……」
いや、そんなはずはない。
さすがのジンジャーも、全国民を騙すことはできないだろう。アリー王子は王位継承者なのだから。
ガーデンテラスでチェスをしていたジンジャーが、俺の問いかけにニヤリと口角を引き上げて笑った。
「チェックメイト」
天から舞い降りた運命の赤い糸が、キラキラと光って見えた。
―THE END―
秘密の微熱恋愛 ~恋する人は女装令息!? それとも男装令嬢!?~ ayane @secret-A1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます