エピローグ

109

 ―スーザン王国 王城―


 青空に幸福の白鳩が飛び立つ。


 王城のバルコニーに現れたのは、純白のウェディングドレスに身を包み、宝石が散りばめられたティアラを着用した美しきアイリス王女。その隣には軍服を身につけたジンジャー王女配が、緊張した面持ちで立っている。


 二人の隣には国王陛下と王妃、たくさんの王族が並んでいた。


 幼い頃より知っていたジンジャーが、まさかアイリス王女と交際し、二年もの長い期間を経て国王陛下を説得し、結婚までこぎ着けるとは、誰が予測しただろうか。


 アイリス王女は離婚歴があるが、王位継承者で国王陛下のあとをつぎ女王陛下となられる。


 国王陛下と王妃に結婚を認めさせたのは、ジンジャーの人望もさることながら、一番の決め手はアイリス王女のご懐妊だった。


 王城の庭園には、挙式を終えた二人を一目見ようと大勢の国民が祝福に訪れている。俺も国民の一人として二人を心から祝福した。


「アリッサム……。まさかジンジャーがアイリス王女と結婚して、王位継承者の父になるとは、誰が想像しただろうか……」


 俺は晴天を見上げる。


 国民の前で、アイリス王女とジンジャー王女配がキスを交わした。


 人々から歓声があがり、王国は幸福に包まれた。


 ◇


 ――アイリス王女の御成婚から十七年。

 アイリス王女は王位を継承し即位した。アイリス女王陛下とジンジャー王配殿下は、国の平和と国民の幸福を心から願い、仲睦まじく暮らしている。


「アスター、フェンシングの勝負をしよう」


「アリー王子、私に勝てるとお思いですか?」


 俺はアリー王子が三歳の頃から教育係として王室に仕えている。アリー王子は毬栗みたいな髪型で、玩具のプラスチック製の剣を振り回し、鼻を垂らした悪戯っ子だった。


 十六歳に成長したアリー王子が俺に闘いを挑む。アリー王子の父のジンジャー王配殿下はチェスに没頭し、アリー王子の教育は一切しない。


 フェンシングの構えをして、鋭い眼差しを向けるアリー王子は、若き獅子のように勇ましい。


 その立ち振る舞いが、愛しき人の凛々しい姿と重なる。

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